最初の一歩
あったらしー、あっさがきたー。
父は出勤、母は家事をこなしながら時折グズる咲輝のお相手。
《スリープ》&《ヒール》のコンボが効いたようで、二人とも動きが大変に機敏だ。
うむ、頑張ってくれたまえ。私もこれからお仕事だ。
さてさて、という訳で私は早速とばかりに行動を開始する。
まずは時間稼ぎ用の結界を作らねば。
今のまま錬金し始めたら、その魔力を感知されて即行でバレてしまう。
それはいけない。
なので、適当な紙を用意します。
魔法陣を描きます。
描く魔法陣は《アンノウンラブル》、不可知化の魔法です。
これを4枚用意して、家の敷地の四隅にぺたりと貼り付けます。
あとは動力源となる魔力を適量注いで完成です。
時間にして一時間もかかっていません。
なんてお手軽なんでしょう。
まぁ、こんな事が出来るのは私くらいでしたけどね、異世界では。
普通の人間は、魔法陣を手描きでさらっと描いたりしない。っていうか、出来ない。
コンパスとか定規とか使ってきっちりかっちり描く。
これは私だけの特技なのだ。
ふふふ、ちょっと気分が良い。
私は頭の中の映像をそのまま描き出す特技がある。
絵描きの才能ではない。
だって、芸術的センスはないもの。
頭の中の映像にセンスがなければ、絵描きにはなれないのだ。
しかし、正確さが物を言う魔法陣描画にはとても助かる。
本来、《アンノウンラブル》は高位の魔法だ。
真っ当に一人で描画しようと思えば、一つ描くだけで一週間はかかるだろう。
それが四枚で一時間と掛からないのだから、私の特技の有用性が見えようという物だ。
ふふふ、褒めても良いのだぞ。
そんな訳で、完成した即席結界。
二、三日もてば良い方かな、という程度の出来だけど。
だって、ただの紙だし!
魔力伝導率とかクソ悪いし!
すぐに燃え尽きるだろうし!
あー、もー! 魔法文明発達してないと超不便!
向こうだと子供の小遣いで魔法紙くらい十枚一束とかで買えるのにー!
ええ、ええ、それも作りますよ!
ちくしょー!
そうこうしている内に、幼稚園に行く時間になった。
「いってらっしゃい」
「いってきまーす!」
あのー、お母様?
私の出来が良くて神童だと思っているからって、せめて幼稚園バスの待合場所くらいまでは見送りに来ません?
玄関で普通に見送るってどうなのよ?
まぁ良いんですけど。
咲輝の時にはちゃんと付いてあげてねー?
その子は、私みたいななんちゃって神童じゃないと思うし。
そんな感じで幼稚園に行く。
園内では、童心に帰って幼児らしく遊びつつ、ついでに地面を漁って良さげな石があれば回収する。
人工魔石用の素材だ。
これだって、本当は霊験あらたかな感じの石を使いたい所だが、そんな物は無い。
どっかの神社だか寺だか教会だかに行ってちょっぱねてくるまでは、そこら辺の石で代用だ。
情けなさで涙が出そう。
幼稚園での日常に、それ以上の特筆すべき点はない。
健やかにのびのびと過ごしながら、帰りのバスに乗り込んだ。
「おかえり」
「ただいまー」
流石に、帰りには母の出迎えがあった。
これもなければちょっと児童相談所に駆け込むか、考える所である。
命拾いしたな。
「にー、おあえりー」
「ただいまー、咲輝ー!」
家まで帰るとハイハイしている咲輝が舌足らずな言葉で出迎えてくれる。
超可愛い。
ぎゅっと抱きしめて頬ずりする。
「きゃー、くしゅっうたいー!」
うーん、実にキュートだ。
こんな可愛い妹の為なら、お兄ちゃん、すっごい頑張れちゃうぞー。
ってな訳で、早速、錬成開始です!
つっても、地味な絵面だけどな! 見た目!
小石持って座っているだけだしな!
でも、分かる奴が見れば絶句するレベルなんだぜ!?
いや、ホントホント!
小石を構成してる原子一つ一つに魔力を絡み付けて、反発しない様に分子みたいに連結させて、しかも力を発揮できるように偏らない様にバランスを取りながら、と実に大変な作業なのだ。
本来なら演算装置と精密作業機器に繋いで行う類の作業である。
普通、生身の手作業ではしない。
理論上は可能だし大昔の職人はそれをしてたけれど、現実的じゃねぇし効率的でもねぇよ、と切って捨てられる。
でも、そんな機材ないから仕方ないよね! ド畜生!
30分くらいかけて、ようやく一個の低級魔石が完成する。
向こうだったら、そこら辺をぶらついている魔物一匹狩れば手に入れられる程度の代物だ。
それを専門にしている連中なら、30分もあれば十個くらいは稼げる。
割に合わねー。
っていうか、低級魔石くらいなら大量生産されてるし。
こっちで言う乾電池並みのお手軽さで買えるし。
魔物狩りの連中とか、低級魔石なんて二束三文な素材に目もくれないし。
それを苦労しつつ作るってどうなのよ。
泣ける。
魔力的にはまだまだ余裕だが、精神的に凄く疲れた。
これ、神経使うわ。
でも、可愛い咲輝の為にも頑張らないとな。
だって、お兄ちゃんだもん。
なので、途中休憩を挟みつつ、日が暮れるまで庭で小石を弄り続ける不思議ちゃんと化していた私である。
成果は、低級魔石6個。
マジでやってらんねー。
一応、6個もあれば魔石連結式加速増幅炉は作れるけども、負荷も大きくなるしなー。
あと、連結させる回路の素材がない。
ふと、庭に生えている草が目に付く。
……いけるか?
草だけど。植物だけど。
どうせ壊れる事が前提の代用品だし、試してみるか?
ちょちょいと草を紐状に編んで、魔石を連結させる。
超原始的な回路だが、まぁ最低限の機能は備えているから良しとしよう。
気休め程度の強化を施して、早速と起動させる。
さてどうなるか。
魔石から引き出された魔力が回路を通して加速していく。
「あー、やばいやばい」
草製回路が発火した。このままだと爆発する。
原始的回路だから安全に途中停止とかできねぇよ。わはは。
いやいや、わろてる場合じゃないね。
簡易防御結界を張って封じ込める。
直後、盛大に破裂した。
結界が無かったら、庭が更地になっていたな。
衝動的実験は危険ですね。
うーん、やっぱそこらの草じゃ駄目かー。
世界樹の繊維なら行けるんだけど、あれと比べちゃ駄目過ぎるよな。
取り敢えず、魔石を回収する。
少し傷付いたが、まだ再利用可能だ。
今度はちゃんとした回路を作りますです、はい。
「テンちゃーん。ご飯よ~」
「はーい」
お母さんのお呼び出しがかかったので、今日の所はここまでだな。
成果は低級魔石6個と、草では魔力回路の代用にはならないという実験結果のみ。
先は長い。




