憂鬱な未来図
退魔剣の流派が一つ、草薙流刀争術の一隊がそこに辿り着いた時、事は既に終わっていた。
妖魔【貌剥ぎ】。
ここ最近、近隣を騒がせていた殺人型の、危険度の高い妖魔である。
逃げ足が速く、今までは取り逃がしていた。
これまでの行動を解析して、この辺りで出没すると網を張っていた。
予想は正しく、確かに貌剥ぎは現れた。
しかし、急行した部隊が到着する前に、貌剥ぎは消えていた。
逃げた、訳ではない。討伐されたのだ。
観測手が、一瞬、爆発的に広がる霊気を感じ取っていた。
おそらく、それの主が貌剥ぎを討伐したのだと思われる。
「川口、近辺にフリーの退魔師はいたか?」
部隊長が観測手に訊ねる。
あるいは、偶然、近くにいたフリーの者が討伐したのか、と予想したのだ。
口調は、そうではないと確信している風だが。
その予想通りに、観測手は首を横に振る。
「いえ、いません」
「残存霊気から、正体を特定できるか?」
「それが、残存霊気がありません」
「何?」
探知能力に長けている訳ではない己でも、詳細は分からないまでも感じられたほどの大霊気が、一切残っていない。
それはおかしい。とてもおかしい。
消臭の技術がない訳ではないが、少なくとも短時間で一切の痕跡を残さず、という事が出来るほどではない。
「……化け物でも出たか」
「隊長、どうしますか?」
「目的は果たした。
獲物を取られたのは業腹だが、それを調べるのは我々の仕事ではない。
専門の奴らに任せて、我々は帰投する」
「「「承知」」」
判断を下した一隊は、即座にその場から消える。
後には、全裸の被害者女性と、
「にゃー」
一匹の猫だけが残されていた。
~~~~~~~~~~
「おお、現在の武士だね。カッコいいねー」
着物を着て腰には刀を携えた一団。
実にカッコいい。素晴らしい。
私も刀欲しいなー。刀術の才なんてないけど。
そこらにいた野良猫に《シンクロ・アイズ》の魔法をかけて、覗き見ていた私の感想である。
まぁ、それはともかく、やばいな。
今の私では間違いなく勝てない。
一対一ならまぁ何とかなるとは思うが、複数人でかかられるとまず負けると思う。
私、魔法行使にはいちいち魔法陣を描かないといけないから速度ないのよね。
二人以上の相手とか、かなりきつい。
どないしよ。
喧嘩する気はないけど、それは向こう次第だしな。
バレた時の対応がどうなるのか。何処にも所属する気はない、とかって粋がる気はないですけれど?
荒事に放り込まれるとか御免ですから、やだー。
だから、対抗できるくらいの戦力は用意すべきですね、早急に。
必要なのは、仮面と首飾りだ。マントは、後回しでも良い。
ただ、作成にかかる手間では、仮面と首飾りの方が難易度高いんだよなー。
マントは、最悪、布一枚あれば作れるし。
性能は下がるだろうけども。
性能低めで良いなら、仮面もまぁ作れない事もないか。
本当に初歩的で劣化品になるが、眼鏡でも加工すればなんとかなりそう。
駄目だったら本格的に頑張る。
問題は、首飾りだ。
あれは、素材からして完全にファンタジーだ。
なにせ、根幹素材が魔石である。
魔物がそこらにいる異世界と違い、こちらには魔物らしい生物がぱっと見でいない。
いたとしても異世界と同様に魔石を宿しているとは限らない。
となれば、人工魔石なんだけど、作るの、大変なんだよ?
作れるけど。作れるけどさ!
加えて、外側もミスリルだのオリハルコンだのアダマンタイトだの、そんな金属が使われている。
いやさ、確かに人工的に生成できますよ?
でも、専用の設備もなく作れと?
出来ますよ? 出来ないとは言いませんよ?
でも、大変なんですよ!?
あと、ベース素材、金とか銀とかプラチナで、とても金がかかる!
4歳児の経済力だと、どう考えても買うのは無理です!
そこからして作れと!?
錬金術、学んでて良かったです!
いやー、何が役に立つか分からないよね、人生って(遠い目)。
魔道具作成だけで終わってなくて良かった。
役に立つような状況になって欲しくなかったけど。
「頭痛くなりそうだぜ……」
いきなり全部は無理。魔力が全然足りない。
魔法金属の生成には大魔力が必要なのだ。
普通は数十人から数百人規模の魔力を集めてやる様な話なのだ。
まずは低級魔石を作って、通常金属を代替にした首飾り……魔力増幅炉を構築しなければ。
ものすっごい劣化品にしかならないけど、私一人分の魔力よりはよほどの大魔力を得られる。
それを使って高品質の魔石と魔法金属の生成をちょっとずつ進めていくしかない。
すぐに壊れるだろうから、どれだけ作る羽目になるのやら。
涙が出そうだ。
「あうー」
「うんうん。あうー、だよねー。あうあうー」
目覚めた妹が慰める様に鳴く。うん、私の思い込みだろうけど。
……こやつはこやつで将来が凄そうだなー。
家を出る前に《スリープ》をかけたばっかりだというのに、帰ってくる頃には効果が消えていた。
魔法抵抗能力が高くなりまくりだ。
その内、単なる《スリープ》は効かなくなるだろう。
もっと高位の魔法を作っておくべきかもしれない。
しかし、残念ながらそんな能力が役立つ機会があるのかどうか。
いや、地球にもファンタジー要素があると分かった今、絶対にないとは言い難いけども。
出来れば、そんな機会が訪れない事を祈るばかりである。
裏の世界に関わっても良い事なんて何もないぞー。
……ああ、そうなると、咲輝用のお守りも作らないといけないのか。
やる事が増えてしまった。
あーもー、何でファンタジーしてるんだよー。
もっと科学頑張れよー。オカルトなんて駆逐してしまえよー。
私は平穏無事な日常を送りたいっていうのに、もー。
「にーにー」
「うんうん。にぃにぃは頑張るからねー。応援、有難うねー」
「だー!」
「おー!」
夜は更けていく。




