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16-9 大好き

今日は2話になります。もう少しでグレン編も終わるかと

 

 鏡に何故か映らない彼女ーーラフィの綺麗な白い肌は透き通ってしまうぐらい青ざめていた。


 そして俺から次第に距離を取り、踵を返して脱衣所から走って出て行く。


「待ってくれ、ラフィ!!」


 彼女が鏡に映らないのは不思議で堪らない。怖いという感情もあるが、それよりも彼女を心配する気持ちが上回った。


 走るにはちょっと狭い廊下を走って追い掛ける。彼女が向かったのはリビング。外に向かわなかった事に安心する。


 リビングのソファで俯く彼女は俺を見ると悲しげな表情を浮かべる。


「ごめんね……」


 その謝罪の言葉は何に対してか全く分からない。


「どういうことだ? 一体何に対して謝っているんだ?」


 そう聞き返すが彼女は泣きじゃくり、俺の問いには答えないので彼女の肩を掴んで揺する。


「ラフィ、教えてくれ!! 何が起きているんだ……さっきから違和感を感じるんだ……何が可笑しいと、誰かが囁くんだ」


 誰かが囁くーーという言葉に肩をビクリと震わせる彼女。


 そして再度上げた顔には決意した強い意志が感じられた。


「……そうだよね。私とグレンお兄ちゃんは一緒に居てはいけない」


 それは彼女からの拒否の言葉。突如の事態に俺の頭は混乱する。


「誰がっ、そんなことを言うんだ!! 俺とラフィが一緒に居るのは俺達の勝手だろ!!」


 だがラフィは首を横に振る。


「ダメなの!! だって……グレンお兄ちゃんは生きてて、私はもうーー」


 ーー死んでいるから


 彼女の言葉は一字一句聞こえている。だけど最後だけは聞こえていたが理解出来なかった。いやしたくなかったんだ。


「ハハッ、ラフィが死んでる? 何言ってんだ。ほら触れるじゃなーー」


 そう言いながら伸ばした手は虚空を切る。確かに彼女に触れたはずなのにまるで幽霊のように既に触れなくなっていた。


 思わず自分の手を見て、つねってみるーー痛い。次には距離感が可笑しいじゃないんかと何度も(まばた)きをするが何も変わらない。


 そんな俺の様子を悲しげに見詰める彼女の視線から目を背けたくなる。そう、彼女の表情は語っていた。これが真実だと。


「嘘……だろ?」


 しかし彼女は横に首を振る。

 その真剣な表情から嘘や冗談では無いのか……


 突如突き付けられた事実に頭が追いつかない。


「まさか……そんな……ああ……」


 この幸せな時間が終わるのだと思うと泣きたくなる。


「……こんな終わり方だけど、良いの。グレンお兄ちゃんとこうやってお出掛けやスイーツを食べたかったから。私は充分幸せだったよ?」


 今にも泣きそうな表情でそう言うが俺には諦めきれなかった。


「俺にはっ、どうしても思い出せない……ラフィが死んだことを……」


 さっきまで一緒に居たのにいきなり死んだと言われても実感が湧かない。


 すると俺の答えにラフィは頷く。


「うん……それは私がお願いしたこと。一時的に私が死んだ事を忘れて、何も考えずに楽しみたかったの。私のワガママで困らしちゃったね。そしてもうグレンお兄ちゃんは戻らないといけない、現実世界に」


 そう言った彼女は顔を伏せて、小さく呟く。


 ーー生き残って……


 その言葉を聞いた瞬間、脳内に多くの記憶が流入する。両親が殺され、傭兵施設でラフィと出会った時の事。そして卒業試験でラフィを殺したこと。両親が殺されてからここまで来たことまでの記憶が蘇る。


 ーーああ、そうか。これは試練なのか。


 試練だと思うとラフィとこうして話すことも可笑しくないような気がする。謎の多い場所だ。死者すら蘇るのだろう。


「……記憶が戻ったみたいだね。あ、どうやらもう時間が無いみたい。グレンお兄ちゃん、楽しい時間をありがとう。大好きーー」


 彼女は向日葵のような満面の笑みを浮かべると粒子になって消え始める。

 突然の事に俺は声が出ない。


 そして次に声を出せた時にはもう彼女は居なかった。


「俺も……俺もっ、大好きだぁぁーー!!」


 その咆哮に応える者は誰も居らず、叫び終わった時には景色が変わっていた。


 ここは石畳で出来た部屋だった。後ろを見ると金属の扉があり、それを開けると最初の広間に出ると老人の興味深そうな声が聞こえる。


「ほう、まさか帰ってくるとはのぅ……そのまま入り浸るかと思って2段も用意したのじゃが……」


 まるで俺を観察していたかのような言葉に怒りが込み上げる。


「……今のはお前らが、全て見せたのか?」


 すると次は女性の声が響く。


「そうよ。男は女に弱いと思ってわざわざ死者まで使ったのにまさか女が裏切るとは……分からないわね人間は。あのまま幸せな時間を過ごすのが1番じゃないの? そしたら永遠に一緒に居られるのよ?」


 ーー永遠に? という事はーー


「もしラフィが死んでいると告白しなくてお前らの思うとおり、あのまま過ごしていたら、俺は死んでいたな?」


 俺の推測に笑い出す奴ら。


「お見事じゃわい。最初の家族も恋人も全てが罠。あそこで家族を助けたり、恋人と過ごすのを選択していたらお前は無限の夢に囚われ、死んでいた。まさか魂を入れたら裏切るとは……人選を失敗したかのぅ」


 とつまらなそうに言う奴らに俺の堪忍袋の緒も切れる。


「ふざけるなっ!! ラフィや俺の家族はお前らのオモチャじゃないんだぞ!!」


 力を貰う立場であることは分かってるがこれだけは言わずに居られなかった。


 だがそんな言葉も奴らには届かない。


「まあ、そう怒らなくても。貴方は会えないはずの家族と恋人に会えたのよ? それに試練は合格。なら良かったじゃない?」


 と全く反省した様子が見えない。余りにも大きな価値観の違いに俺は奴らを心底軽蔑した。


 もはや奴らにとってはこれもゲームなのだろう。

 さっさとここを出たかった。


「おい、さっさと力を寄こせ」


 必死に怒りを抑え、冷静を装うがいつもより低い声が出てしまう。


 しかしそれにも気付かないのか、奴らはお喋りに夢中だ。


 それを見て俺はーー


 ーー装うのを辞めた。


「いい加減にしろ!! お前らが人の気持ちをこれっぽっちも理解出来ないのは分かった!! 俺はお前らが嫌いだ!! さっさとここから出せ!!」


 目の前の石を思いっきり蹴りまくる。壊れない事は百も承知で収まらない怒りをぶつけたいだけだった。いつからか足から血が出ていたが俺は蹴るのを辞めなかった。


 すると老人が呆れた声を出す。


「全く最近の若造は忍耐が足りないのぅ……カルシウムとやらは取っておるか?」


 そんな問いは無視して石を蹴り続けると大きな溜息をして話を続ける老人。


「分かったわい。お主には風の適性がある。それを与える。その力の注意点は世界の何処かにある本でも読め」


 その言葉の直後、俺の周りを光が包み込む。その光を触った途端分かる体中を駆け巡る力の奔流。


 今なら誰にも負けない気がする。


「ああ……分かる……これが選ばれし者の力か……」


 そして今すぐ使いたいという欲求に囚われる。奴らも憎いがここを幾ら壊しても無駄な気がする。


「この力、好きに使わせて貰うぜ」

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