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16-8 幸せな世界

 

 引き金を引こうとした時、脳裏に誰かの声が聞こえる。


「いいのか? 夢の中で何しようと現実は変わらん。そんな無駄な事をする意味はあるのか?」


 それは俺なのか、さっきの奴らなのか分からない。でもその意見はスッと入ってくる。それは俺の中で葛藤していた気持ちだったからだ。


 確かにこの不思議な世界、夢だろう。過去に起きた事が今、目の前で起きてそして二人の俺が居る。銃はいつの間にかに持っているし、奴らは何故か撃ってこない。俺の行動を待っているかのように。


 これからの惨劇を止めたいーーという素直な気持ちが胸を埋めるが所詮夢の中で現実は何も変わらないんだ、という気持ちもある。


 無限の思考ループに入りそうな時ラフィの言葉が脳裏を過ぎる。


 ーー生き残って……


 その言葉の意味は地べたを這いつくばっても生き残れ、だったに違いない。この言葉は俺を生に縛り付けた。何度も何度も無意味な時間の流れに嫌気が差して死のうとした度この言葉が脳裏に過ぎった。


 ーー生き残って……


 それは彼女が命を懸けて託した願いでもあり、彼女の優しさでもあった。優しさは時に毒になる事もあるが、最後の最後に俺を踏みとどまりさせた。


 だけどずっとこの調子じゃラフィも浮かばれないだろう。だから俺は止まっていた時間を動かす。俺の時を止めたこの惨劇を今ーー


 ーー全て受け入れる!!


 持っていた銃を捨てて、この場に背を向ける。


 すると母親がこちらに、窓から手を出して助けを呼ぶ。


「助けて!! グレンなんでしょ!! 私は貴方ともう1度幸せな時を過ごしたいの!!」


 そう叫ぶ母親は正に俺の母親だった。だが俺の心には既に響かない


 そして後部座席の幼き俺はいつの間にかに居なくなっていて、目の前にはラフィが立っていた。


「グレンお兄ちゃん!! 会いたかった!!」


 そう言って抱きついてきたラフィは本物のように暖かく、生身の人間だった。最後に話した声のまま、可愛らしい笑顔で俺に話し掛けるーー





 気付いたら俺とラフィは街のカフェでティータイムを楽しんでいた。目の前のラフィはケーキを幸せな表情で頬張っている。1口1口幸せを噛みしめるように頬に手を当てて、恍惚な表情を浮かべる。


 ああ、そうだ。今日は前から行きたかったカフェに来ていたんだ。昨日も一昨日もラフィと一緒に居たじゃないか。


 ラフィが口いっぱいにケーキを頬張り、それを眺めている俺は幸せだった。

 この時間が永遠に続けば良いのに、そう思ったが突如頭に痛みが走り、景色が歪む。


 ーー生き残って……


 誰かの声が聞こえる。それはとても懐かしく、苦しい。


 心配そうに覗き込むラフィに大丈夫だ、と返すが、違和感が俺の中で膨れ上がっていく。


 しまいには脳裏をラフィの死に際が何度も過ぎる。


「ウワァァァァァ」


 突如頭の中に来た生々しい映像に俺は椅子から転げ落ちてしまう。


 周りの人が怪訝な表情で見てくるが、俺は恥ずかしいと思う余裕すら無かった。ラフィは俺の異変に気付いたのか、駆け寄ってくる。


「大丈夫!? 今日暗い表情が多かったから心配してたんだけど、体調悪いんじゃないの? 今日は帰ろうよ」


 と彼女は端末で会計を済ませ、俺を抱き起こしてくれる。俺より身長が20cmも小さい彼女だがしっかりと俺を抱き起こしてくれる。


 さっきから心配かけてばかりだな……俺は。


 さっきの悪夢もすっかり脳裏から消え、落ち着いてきた。


 俺は傍でずっと健気に介抱しててくれた彼女を抱きしめる。


「もう落ち着いた。ありがとな、ラフィ」


 胸元に埋もれてしまう小さな彼女は耳を真っ赤にしながら小さく呟く。


「グレンお兄ちゃん……ここ外だから、ね? もう、離してよ……」


 消え入りそうな程小さな彼女の声で周りの状況に気付く。

 こちらをチラチラ見る通行人、赤面しながらこちらを見るカップル、冷ややかな目で見てくる女性達。


 そんな注目された状況に俺は彼女の手を取って、早足で駆け抜けていった。


 彼女に連れられ、着いたのはマンション。内装は綺麗で顔認証のセキュリティドアもある。若い俺らには不相応だと思ったが当たり前のようにとある部屋の前に立ち、顔認証と鍵を使って入っていく。


 中は広々としていて一人で住むには広すぎる。よく見ると俺の物もあってーーああ、朝一緒に出たじゃないか。


 定位置のソファに座って足を投げ出して寛ぐ。この一時が良い。


 そんな時にラフィが温めの水を持ってきてくれる。


「とりあえず水飲んで」


 コップに入っている水を一気飲みする。すると落ち着いて、もっと飲みたくなった。


 立ち上がって冷蔵庫を開けるとそこにはラフィが作った手料理が冷えていた。今日の夜、出すだろう作りかけの料理だ。


 するとラフィが慌てて冷蔵庫の扉を閉める。


「もうっ、今日の夜の献立がバレたら面白くないじゃん!!」


 もちろん彼女は本気で怒ってる訳ではなく、頬を膨らませて拗ねてる状態だ。


 そんな彼女の頬を両手で挟んで、耳元で囁いてやる。


「献立が分かったら更に期待が高まるよ。今夜楽しみにしてる」


 そうすると彼女は俯いてキッチンに引き籠もってしまう。それは長年の付き合いから照れ隠しだと分かる。


 ーー長年?


 ふといつから一緒に居るのか、いつ出会ったのか頑張って思い出そうとするが思い出せない。それなのに長年? 理路整然としない自分の気持ちに違和感を覚える。


 そんな考えが胸中にある時、ラフィが俺の顔を覗き込んでくる。


「大丈夫? 顔色悪いよ?」


 ……どうやらそんなにヒドい顔をしていたみたいだ。


「大丈夫だ。ちょっと顔洗ってくる」


 心配するラフィをなだめて、脱衣所にある洗面台で冷たい水で顔を洗う。さっぱりした頭で再度考えるがどうやっても思い出せない。


 濡れた顔をタオルで拭いて、鏡を見るとちょっとやつれた顔をしていた。

 変なことを考えていたからか。


 いつ出会ったのか分からないが、そんなことはどうでもいい。俺にとってラフィは大切な人だ。その思いは変わらない。


 再度気合を入れるために顔を冷たい水で洗っていると後ろから抱きつかれる。


「うおっ、ラフィ何だよ?」


 顔を上げてタオルは何処かと鏡をチラッと見た時、俺の背筋が凍った。


 背中に抱きついているはずのラフィの姿が見えないのだ。俺に隠れてるから見えないのではなく髪も服も手すら欠片も鏡に映らない。


 思わず振り返ると顔面蒼白のラフィが居た。

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