出ていく水夫
共同倉庫の夜番が二人、同じ日に辞めた。夜の仕事に比べて賃金が安いという理由だったが、退職届には同じ書式が使われていた。港務官は後任の採用を急ぎ、町会は夜間の施錠方式を見直すことになった。
シオンは辞めた一人に会った。男は南の親戚を頼って町を去る準備をしていた。倉庫で見たものを話せば家族が危ないと怯えている。シオンは名を出さずに済む証言方法を尋ねたが、男はそもそも役所を信用していなかった。以前、夜警へ届けたとき相手に名前が漏れたという。
ヨエルは訴えを聞き、昔の記録を探した。届出を扱った書記の手落ちが分かったが、いまその書記は別部署へ移り、同じことが起きないよう規則は改められていた。制度が変わっても、怖い思いをした人間の記憶までは戻らない。
夜番を辞めた男は、町で長く暮らすつもりだった。小さな菜園を借り、子供が通う学校も決めていた。それらを置いて去る費用は、未払いの賃金よりずっと重い。シオンは旅の荷を縛る縄を持ちながら、悪名に追われる暮らしがこんなに地味な喪失でできていると知った。男は家族の名だけは調書に書かないでほしいと頼んだ。
シオンは男に黒花の札を渡しかけた。恐怖へ恐怖で対抗する印など、何の役に立つだろう。代わりに旅用の雨覆いを無料で直した。男は礼を言わず、それでも次の日の馬車に間に合うよう荷をまとめた。彼に必要なのは大げさな誓いではなく、濡れずに旅を終えることだった。
夜、共同倉庫では臨時の夜番が雇われた。門の鍵は増えたが、内部の帳簿を誰が書いているかは変わらない。シオンはそこに入り込むより、金がどこへ流れるかを見たいと思った。悪を使って人を支配するなら、まず人が何に縛られているか知らねばならない。




