花の五弁と七弁
町の木彫師が、黒花の札を二枚並べてシオンへ見せた。五枚花弁の版は彫りが浅く、七枚は輪郭が太い。彫刻刀を使った者の癖も違う。しかし七枚の版には、元の花を知る者だけが気づく小さな切れ込みがあった。模倣者は偶然でなく、シオンを意識している。
木彫師は七枚の元版を探せるかもしれないと言った。使われた木は川上の流木ではなく、王都の船具工房から流通する硬い榛の木だという。誰が買ったかは分からない。問屋へ問い合わせるには商会の信用が必要だった。
ネラは経理の仕事として、船具問屋の在庫表を見せてもらう手続きを整えた。彼女はシオンへ礼も期待もしなかった。「あなたの印のせいで損した家があるなら、勘定を残す」。シオンはその言葉に頷いた。目的は違っても、同じ帳簿を見ている間だけ協力できる。
問屋の帳場には紙を乾かすための砂箱が置かれ、売買の記録が月ごとに束ねられていた。ネラはシオンが勝手に頁をめくるのを止め、閲覧許可のある項目だけ指した。証拠を集める仕事は、相手の秘密をすべて覗くことではない。彼は不服でも従い、榛板の納品先をひとつずつ写した。
問屋の売上には、倉庫向けの榛板を大量に買った小商会があった。代表はハーディの旧知の男だが、犯罪の証拠にはならない。材木は合法の商品で、買った後の使い道も様々だ。シオンは安易に確信できないことを苛立たしく思った。
夕方、木彫師は五枚花弁の版を返してきた。「本当に怖がられたいなら、まず印を直せ」。シオンは返された版を見つめた。形を洗練させるだけで、人は彼を恐れるだろうか。彼は削る刃を握りながら、結局手を付けなかった。




