蓄光の封印
王都の術師組合が、河港の共同倉庫へ荷札用の封印を試験導入した。薄い銅札に術光を一滴閉じ込め、封を切ると色が変わる。盗難を防ぐ便利な仕組みだが、夜の見回りにも追加の仕事が生まれた。港務官は費用を抑えるため、一部の倉庫だけ試すと決めた。
リスベルはシオンへ封印袋の縫製を依頼した。丈夫な布で作り、破れれば痕が残るよう縫う。シオンは不意に尋ねた。「封印を破らず、中身だけ盗めるか」。リスベルは顔を上げ、「できるなら工夫を教えて。対策するから」と言った。その返答には恐れより仕事への好奇心があった。
共同倉庫の出入り口には、新しく雇われた夜番が立っていた。門を開ける者は名簿と荷札を照合される。シオンは縫い物を渡し、受領書の控えを受け取った。その夜、別の小倉庫で盗難が起きた。守りの薄い場所へ荷が移っただけかもしれない。
夜警の一人は封印が増えることに不安を漏らした。光が消えたら自分の監督責任にされるのではないかという。港務官は天候による故障を記録する欄を設け、責任を一人へ押しつけないと約束した。リスベルは試作品の使用期限を赤い糸で示した。光る道具にも人を安心させる説明が必要だった。
港務官は試験結果を見て、封印の数を増やすか検討した。費用を負担する商人は反対し、被害を受けた船主は賛成した。シオンは自分が術式を悪用する方法を思いついたことを口にしなかった。ひらめきが即座に価値を持つわけではなく、誰かに使わせれば害が出ることも知っていた。
深夜、封印の淡い光が水に映った。川向こうの小倉庫では、見張りが眠らぬよう歌っている。光のある場所だけが守られ、ない場所に危険が集まる。黒い花にも、似たような偏りが生まれているのかもしれなかった。




