盗まれた干し肉
夜間学舎の生徒が、港の食料倉庫から干し肉を盗んだとして捕まった。少年は荷詰め場で賃金を奪われた一人で、家には病気の妹がいる。盗んだ肉はわずかだが、倉庫主は見せしめの重罰を求めた。従業員の前で罰すれば盗難が減るという。
ネラは少年の事情を調べ、倉庫主にも被害があると認めた。だが倉庫には賃金未払いの記録があり、少年への債務と窃盗を別々に処理するよう法務書記へ申し立てた。シオンはその場で、倉庫主の怒りを観察した。損失を償わせることと、恐怖で支配することは違う。
倉庫主は「一人許せば百人盗む」と叫んだ。シオンは思わず笑った。「では百人が腹を空かせる理由から数えればいい」。周囲が静かになり、倉庫主はシオンの前科を持ち出した。窃盗犯に何が言える、と。反論できない箇所を突かれ、シオンは黙った。
少年は盗んだ干し肉を自分では食べず、妹へ持ち帰ろうとしていた。倉庫主はそれを聞いても被害届を下げなかった。ほかの従業員との公平を守るためだという。医療基金の係員は少年を慰める前に、家の薬代を計算した。目の前の行いが罪と理由の両方を持つことに、シオンは安易な裁きを避けざるを得なかった。
少年の裁きでは、返却可能な分を戻し、残りを作業で弁済することになった。倉庫主の提案した見せしめは採用されない。少年の妹には町の医療基金から薬が届けられた。誰かの激昂が、最終の決定を支配することはなかった。
シオンは帰りに干し肉を買い、少量を自分の食卓へ載せた。自分ならもう少し美しく恐怖を扱える。その思いは消えない。しかし実際に誰かの運命を握るには、他人が払う代価をまず見なければならない。




