砂色の革袋
春の小雨が続いた日、シオンの下宿へ見知らぬ老女が来た。砂色の革袋から取り出したのは、七枚花弁の札と、小さな骨製の笛だった。渡し場で恐喝した男たちは、笛を吹くと必ず集まったという。老女の孫は彼らに雇われ、姿を消したらしい。
「札の元を作ったのはあんただろう」。老女の声には責める響きがあった。シオンは五枚花弁の木版を見せ、偽物だと説明した。だが老女は顔をしかめた。「同じ黒い花なら、どちらでも怖いよ」。彼は言い返せなかった。印を最初に広めたのは自分である。
孫は十七歳のフォルで、石切場の仕事を辞めて港へ来た。母親を早くに亡くし、祖母の家を支えていたという。老女は彼が悪事へ加わったことも認めた。ただ戻ってきてほしいのだと告げた。シオンは孫の行為をかばわないと答え、その代わり行方を調べることを約束した。
老女はフォルの幼い頃を語った。壊れた靴を自分で縫い、祖母のために薪を割る優しい子だったという。シオンはそれだけで無罪にする気はなかったが、少年を見つければまず自分の口で話を聞きたいと思った。老女が帰るとき、下宿の急な階段を一段ずつ降りる音が長く続いた。
笛には魔術ではなく、船頭が使う音程の違う穴があった。河港の古い倉庫で合図として使われる型だという。シオンは船具屋へ行き、製造元を尋ねた。店主は十数年前に廃業した工房の品だと答え、もう手に入らないと話した。
夜、シオンは老女が置いていった札を机に並べた。七枚花弁には小さな傷が増えていた。人から人へ渡り、汚れた指で握られた跡だ。彼はその汚れを嫌悪した。だが札を作った者が誰であれ、自分の花が人を縛る道具になった責任から逃げたくはなかった。




