ガラス管の術灯
リスベルが河港へ持ち込んだ術灯は、細いガラス管に光を貯める仕組みだった。船の手すりへ付ければ霧の日にも道を示せるが、熱を帯びると割れやすい。港務官は試験期間を延ばし、術師組合は費用の追加を求めた。便利な魔術ほど、人の手入れを前提としている。
シオンは固定紐の試作を任された。傷めた腕でもできる仕事だが、均等に縫わなければガラス管が傾く。彼は昼の数時間を試験場で過ごし、工夫の違う三種類を作った。リスベルは強度を測り、最も見栄えの悪い厚い紐を選んだ。
「美しくない」と言うと、彼女は首を傾げた。「割れたら灯りは消えるよ」。シオンは不満を隠さなかったが、実験台の欠けたガラスを見て口をつぐんだ。光る術式そのものより、無事に帰る船が必要としているのだ。
港務官は術灯の光を三色に分ける案を出したが、赤と橙は霧の中では見分けにくいと船頭から指摘された。リスベルは術を調整するより、灯の高さを変える方が確実だと判断した。魔術の美しさだけに頼らない改善は、シオンには拍子抜けするほど実務的だった。彼は革紐の長さを揃え直し、試験を支えた。
夕刻、試験の様子を見に来たエルクが、術灯を持って歩いた。剣の稽古で手首を痛め、今夜は見学だという。シオンは彼に、弱い者を守るのが勇気かと尋ねた。少年はすぐ答えなかった。「守れなかった時に逃げないことも、勇気だと思います」。
術灯の光は雨の中で揺れ、向こう岸の杭を淡く照らした。シオンはその返事を胸に置き、厚い革紐の縫い目をもう一度確かめた。自分がいつか誰かに討たれるなら、そんな覚悟を持った者がよい。ただし目の前の少年がその相手になると決めたわけではなかった。




