門番の妹
渡し場の恐喝に関わった男の一人は、北門の臨時門番の兄だった。門番の妹メルは十七歳で、兄とは幼い頃から別々に暮らしていた。男が捕まれば自分まで仕事を失うと恐れ、役所からの呼び出しを避けていた。
バルトは部下たちへ、血縁だけで職務から外すことはしないと告げた。メルには勤務を続けさせ、必要な聴取は勤務時間外に行う。ヨエルは兄の足取りを尋ねたが、妹は知らないと答えた。知らないことを責められるなら、誰も証言したくなくなる。
シオンは門前の靴修理台で、そのやり取りを見ていた。偽の黒花を使った男たちを一網打尽にしたい気持ちはある。けれど誰かの親族まで脅せば、自分が嫌う悪と見分けがつかなくなる。彼はメルに話しかけず、頼まれた門番の革紐を縫い終えた。
メルは兄について、幼い頃から人の顔色を見て嘘をつくのが上手かったと話した。その一方で、自分が病んだ冬には薬を買ってきてくれたという。彼女の記憶から兄を一色で塗りつぶすことはできない。それでも今、人を脅して金を取るなら止めてほしい。シオンはその願いを、妹の弱さではなく自分で選んだ言葉として聞いた。
夕方、メルがシオンへ近づいた。「兄が悪いなら、兄を捕まえて」。声は震えていたが、頼み方ははっきりしている。シオンは返事に迷った。彼は衛兵ではなく、命令を受ける義務もない。それでも「妹を使うことはしない」とだけ答えた。
夜の詰所ではメルがいつも通り門の油灯を点検した。バルトは彼女の仕事を確認し、記録へ署名した。翌朝の交代表に名前が残ることが、彼女にとって今一番確かな救いだった。シオンの黒い外套は暗い門の外へ消えた。




