傷口の勘定
渡し場で負った傷の診察料は、修繕仕事二週間分に相当した。医者は感染を防ぐ薬を塗り、無理に腕を動かさぬよう注意した。シオンが支払いを先延ばしにできないかと尋ねると、医者は帳場の規則を示した。針と薬草を買うにも費用がかかる。
シオンは働けない日を数え、賠償の積立を崩すか迷った。定期報告の期限は近く、遅れれば役所へ説明しなければならない。ラウルは彼の事情を聞くと、書類の綴じ直しを頼んだ。細い指先でできる仕事なら、腕の傷を悪化させずに済む。
渡し守からは礼の手紙が届いた。渡し場の通行料は元に戻り、船頭たちが交代で岸に立つようになったという。男たちが消えたのはシオンが追い払ったからではない。正式な巡回衛兵が来ると聞き、稼ぎ場所を替えたのだ。
薬代の領収書には、麻酔に用いた薬草と傷を洗う酒の値まで記されていた。診療所では別の患者が順番を待ち、医者はシオンだけを特別に扱わない。腕の痛みで針を落とした彼へ、見習いの看護師が手を貸した。シオンは手を引っ込めかけ、拾ってくれた針を受け取った。傷を負わせた相手も、癒やす相手も、彼が望む悪の美しさなど知らない。
ヨエルは調書を取る際、シオンにも危険な挑発をした責任があると指摘した。シオンは否定しなかった。相手を誘い、帳簿を見せさせたのは自分だ。誰かを傷つけたわけではないが、渡し守を巻き込む可能性を軽く考えていた。
傷口がふさがる頃、春の河港には新しい帆が増えた。シオンは黒い花の木版を手に取り、腕が震えず押せるか確かめた。恐怖を使う者へ恐怖を返すには、まず自分が同じ卑劣さへ落ちない方法を見つけなければならない。




