遠い城の婚礼
サーヴェン公領からの書状が、河港の商人組合へ届いた。公家の遠縁が結婚するため、隣接する王国との交易路で式の荷物を優先したいという。荷役組合は慶事を歓迎したが、薬を運ぶ定期便まで遅れるなら困ると抗議した。公領側の役人は譲らず、交渉が始まった。
フェルノはシオンへ、式で使う黒い馬衣の補修を頼んだ。祝いの行列に黒は不吉だと不思議がられたが、公領では花嫁の家の色が黒と銀なのだという。シオンはその布の美しさに見入った。黒は悪だけの色ではない。誰かの門出も、家の歴史も背負う。
調停の結果、薬の定期便は従来の時刻を維持し、式の荷は夜間の空いた道を使うことになった。騎士団が護衛を増やす費用は公領が持つ。婚礼を祝う人にも、無関係な人にも、互いの都合がある。役人たちは何日も使い、ようやく一枚の取り決めに署名した。
婚礼の荷には、花嫁の祖母が育てた銀葉樹の苗もあった。公領では新しい夫婦が庭へ一本植える習わしだという。苗が枯れぬよう夜道の荷車へ水桶を積み、護衛は揺れを少なくする道を選んだ。シオンが縫った馬衣は、人を恐れさせるためではなく、その小さな苗を届ける行列を飾った。
シオンは馬衣を渡した際、フェルノからもう一度公領で働かないかと誘われた。以前より具体的な条件が並ぶ。土地を替えれば新しい印を掲げやすいだろう。だが公領の商人に雇われるなら、その契約には従わねばならない。シオンは報酬だけ受け、返事を保留した。
城で婚礼の鐘が鳴った頃、ルーヴェルでは小雨が降り、薬の荷車が街道へ出た。黒い馬衣は遠い式場で拍手を浴び、同じ道を病人のために走る車輪が静かに通り過ぎた。シオンは二つの荷の行き先を知らないまま、道具箱を閉めた。




