母親の証言
夜間学舎で問題を起こした貸主の弟が、北街道で捕まった。エルクたち騎士候補生が宿泊人の被害を調べ、手配書と本人を照合したという。身柄は正式にルーヴェルの衛兵へ引き渡された。ヨエルは供述を取り、偽の保証人を使った契約を一件ずつ調べ始めた。
審問で証言したのは、学舎の少年の母だった。男が息子の名を口にした瞬間の恐怖を、彼女は震える声で話した。証拠として出された手紙には、息子を学校から追い出せと書かれていた。母は手紙を焼かずに取っておいた。その一枚が、男の言い逃れを狭めた。
シオンは廊下で成り行きを聞いた。被害者たちは男を罰するだけでなく、虚偽契約を取り消してほしいと求めている。騎士候補生は手配どおり捕まえただけで、借金の勘定には関わらない。役所では別々の者が、それぞれの責任で続きを担った。
母親は法廷へ向かう朝、息子が書いた短い手紙を持参した。脅迫された時、授業を続けたいと言った言葉がそのまま記されている。講師は証拠になるか分からないと説明したが、母は手放さなかった。いま息子が机へ向かっている事実を、裁判官へ見せたかったのだ。
男は父親の借金を盾にしていたことを認めず、自分も債権者に追われていたと訴えた。裁判官は事情の調査を命じたが、家族への脅迫を正当化しなかった。シオンは罰を望んでいる自分と、男が怯える姿を見たい自分を区別しようとした。後者を隠して善人ぶる気はなかった。
夜、ネラから届いた勘定書には、偽契約の取消しに必要な印紙代まで書かれていた。母はその費用を組合の基金から借り、働いて返すという。紙一枚が人を縛り、別の紙一枚がその縄を解く。シオンは黒花の印を机へ伏せて置いた。




