揺れる青銅札
港務官が新しい航路札を作らせた。霧でも見分けられるよう、札の縁に小さな術光を封じる計画だ。術光は一晩で消えるが、灯の色を変えれば船の所属が分かる。リスベルが試作品を作り、シオンは取り付け用の革紐を縫う役になった。
最初の試験では、術光が湿気を帯びた金具へ移り、札そのものが暗くなった。港務官は取り付けを急がせなかった。代わりに普通の反射板を使った合図も残すことを決めた。シオンは見栄えのよい光だけを選びたかったが、夜を走る船頭たちが反対した。
試験の夕方、見物していた幼い少女が手すりの外へ身を乗り出した。父親は荷役の仕事で目を離していた。エルクが通りかかり、剣ではなく手を差し伸べ、少女を引き戻した。彼は少女を叱らず、父親へ状況を説明したあと、その場を去ろうとした。
エルクが少女の腕を掴んだ際、自分の手首の痛みで顔をしかめた。同行の騎士候補生が代わって支え、父親は少女を抱き上げて謝った。港務官は見物人が近づきすぎた原因を調べ、柵の位置を少し奥へ移すことにした。善意の一瞬にも、後から直せる仕組みがある。
シオンは少年を呼び止めた。「何か褒美を求めないのか」。エルクは反射板を眺めながら首を振った。「父親が次から気づけば、それで足ります」。シオンは拍子抜けした。名を上げる好機に思えたのに、少年の関心はすでに港の安全へ戻っていた。
宿へ帰る道、シオンは新しい札を一枚買った。青銅の縁には術式が浅く刻まれ、光らない時も役に立つ目盛りがある。小さな品にも、見せかけの輝きと実際の働きを両立させる工夫があった。彼は札を黒い花の版の横へ置き、両方を見比べた。




