泥道の税札
門外の荷車は三日間動けなかった。雨で河原の迂回路が崩れ、通行税を徴収する役所は橋を修理する金がないという。街道の小村では干し草が濡れ始め、冬用の餌を失えば馬が売られる。シオンは問屋の帳簿を通じて覚えた徴税の仕組みを確かめるため、門番のバルトに聞き込みをした。
通行税には町の橋を保つための名目があった。ところが実際の修繕費は、昨年の火事で焼けた詰所の再建に回されていた。役所が嘘をついたわけではない。ただ、別の災難が先に金を使ったのだ。そんな事情を知らずに怒る商人と、事情を知っても何もできない門番の間に、泥水が溜まっている。
シオンは税札の束を盗み、門の前で燃やせば混乱を起こせると考えた。準備した火種を握ったところへ、荷車の御者が息子を連れて来た。少年は税札の番号を声に出して読み、父の分を見つける仕事をしていた。火をつければ番号の照合ができなくなる。
シオンは火種を消し、代わりに詰所の掲示板へ修繕費の転用先を書いた紙を貼った。町会は翌日から公開で審議することになり、税の免除はまだ決まらない。
町会で公開された数字を見て、商人は免税を要求し、橋の近くの住民は再建費を守るよう求めた。火事で家を失った者たちも詰所に集まり、修理を遅らせれば夜警が減ると訴える。誰の言い分も切り捨てがたく、議場の空気は重い。シオンが期待したような、悪者一人を吊るせば済む争いにはならなかった。
バルトは犯人を探していたが、シオンには声を掛けなかった。小さな紙一枚が町を動かす。けれどその決着は彼の望む方向へは進まない。誰かに脅されたのではなく、それぞれが損を減らそうとしているからだった。




