白い靴の使い
革問屋の一件を調べに、王都から監察補佐官のリュシアが来た。彼女の白い靴は泥の多い町ではひどく目立った。旅慣れていないのではなく、訪問先に自分の立場を知らせるためだという。宿屋の主人は廊下の掃除をやり直させ、税役所の係官は古い書類を倉から引き出した。
シオンは彼女を遠くから見た。何の脅しもないのに周囲が動く。これこそ求めていたものに近い。ただ、リュシアが語るのは格式の話ではなく、物資の流れと印章の所在だった。彼女は問屋の閉鎖で生じた損失を数え、北辺向けの靴の代替調達を急いだ。
宿の食堂でシオンは黒外套を整え、彼女の向かいに座った。「恐怖で人を従わせる方法を知りたい」。リュシアは匙を置いた。「私は恐怖では動かしていない。契約と責任で動かしている」。彼は、どちらも似た結果を生むと主張した。
「違いは、あなたがいなくなった翌日にも続くかどうかです」。その言葉が気になった。シオンは無理に微笑んで席を立つ。背後ではリュシアが宿の女将に、干し草の保管場所について尋ねていた。
リュシアの従者は宿の主人から白い靴の評判を聞いて苦笑した。彼女は昔、辺境の泥道を二年歩いている。ただ役人が見つからないと書類は止まり、人探しに費やす一刻さえ損失になる。だから遠目で分かる姿を選んだという。美しさと効率を両立させる工夫だが、シオンがそこまで知るのは、もっと後のことだった。
夜、市壁の外で雨が降り出した。南の村から来た荷車が足止めされ、門番たちは通行税の免除を巡って揉めた。王都の役人一人が来ても、町の面倒は片付かない。シオンは窓辺に立ち、白い靴より長く残る黒い影とは何かを考え続けた。




