染料組合の議案
ミラの工房が属する染料組合で、新しい検査規則が提案された。安価な黒染めに有害な鉱粉を混ぜる業者が増え、肌を傷めた客がいたためだ。小工房には検査費が重く、大工房は規則を歓迎する。職人たちは夕方まで議場で言い争った。
シオンは今は組合員ではない。依頼を受けた店の外で荷台の覆いを縫っていると、元同僚が議案の写しを持ってきた。「あんたなら、この規則をどう壊す」。冗談半分の問いだったが、彼は目を通した。規則が厳しすぎれば、小さな工房が廃業し、悪質な商会だけが残る可能性がある。
ミラは規則そのものに反対しなかった。検査料を売上に応じた方式に変え、初回は組合が負担する案を出した。大工房は不満を述べたが、肌を傷めた客の証言を聞いて修正に応じ始めた。シオンが脅さずとも、利益の対立は言葉と数字で動く。
組合の会議室には肌を傷めた客の布片が持ち込まれ、染め粉の分析結果が添えられた。いちばん被害が多かったのは、安い布を選ぶ若い労働者たちだった。検査費を巡る議論は長引いたが、被害品の回収だけは先に決まった。ミラは工房の棚を改め、同じ粉がないと確認した。
帰り際、ミラが外へ出てきた。シオンの修繕した覆いを見て「縫い目が少し荒い」と言った。彼は腹を立てかけ、理由を尋ねた。糸が太すぎて雨で膨らむのだという。職人としての指摘は、かつて弟子だった者にも容赦がなかった。
その晩、シオンは布をもう一度縫い直した。黒く染めた布が誰かの皮膚を傷つけるなら、見た目が美しくても欠陥品だ。自分が掲げる悪も、ただ恐れさせるだけでは欠陥なのかもしれない。答えは出さず、糸の太さだけ変えた。




