川岸の借用証
夜間学舎の生徒の父へ、正式な返済請求が届いた。偽の保証人を使った契約とは別に、実際の借り入れが残っていたのだ。母は帳簿を見つめ、息子を働かせるしかないかと呟いた。講師は学舎を続けてほしいと頼み、双方の相談に立った。
シオンは借用証の控えを持ち、ネラの帳場を訪ねた。彼女は利息の計算と支払日を確かめ、違法な取り立てが取り除かれても債務は消えないと伝えた。誰かを罰すれば家が救われる。そんな単純な話ではなかった。
父は港で荷を担ぐ仕事を増やしたが、腰を傷めて休む日が続いた。近所の人々は食料を分け、町の貸付制度について教えた。シオンが援助金を出そうとすると、父はきっぱり断った。「一人の施しより、返せる約束にしてくれ」。シオンは自分が礼を期待していたのか考え、答えに詰まった。
相談所の係員は、父が新しい仕事へ移る前に腰の診断書を取るよう勧めた。後で再び痛めれば、前の職場の補償が争いになるからだ。少年は父の代わりに窓口で申請書を読み、一文字ずつ確かめた。夜間学舎で習った字が、家族の生活で初めて役立った瞬間だった。
その夕方、荷役組合の会計係が父の経験を買い、荷札の検品仕事を紹介した。力を使わず、賃金も少し下がるが、学舎へ通う息子と同じ時刻に帰れる。父は新しい契約に署名した。誰も特別な英雄にならずとも、生活が前へ進むことはある。
シオンは川岸の石に腰を下ろし、偽署名を作った男の行方を考えた。居場所はまだ分からず、被害を受けた家はすでに自分たちの足で立ち始めている。ならば彼が追うべきは救済の名誉ではない。人の弱みを使い捨てる手口そのものなのだと、黒い花を指の中で回した。




