銀糸の古い文字
王都の術師組合から、風見鶏の改符について返書が届いた。リスベルが広げた紙には、三十年前に使われた術式の写しと、別の手で書き足された線の意味が記されていた。谷へ獣を追いやるためではなく、街道の馬が魔獣を恐れないよう作用の範囲を狭めたのだという。
書き換えを許可したのは当時の宿駅役人だった。大雪で軍の補給馬が立ち往生し、遠くの谷への影響を確かめる前に調整した。村に残る記録には被害の訴えがあり、宿駅側の帳簿には応急処置とだけある。責任の所在は一つの印で断言できない。
オランは返書を読むと黙り込んだ。亡くなった祖父はその冬、何度も宿駅へ頼みに行ったという。村長は弁償を求めたいが、当時の役人も宿駅の親方もすでに亡くなっている。現役の役所が引き継ぐ責任をどこまで認めるか、町会で協議することになった。
宿駅の古い役人の孫は、祖父の決断をすべて誤りだったとは認めなかった。あの大雪で補給が絶えれば兵だけでなく村の食料も届かなかったという。オランは反論しつつ、当時の死者の数を聞くと黙った。記録は両方の村へ写され、これからどの谷を守るかという話へ移っていった。
シオンは古い地図の上に指を置いた。街道と谷の距離はわずかだった。片方の安全を守る選択が、もう片方の日々を長く削ってきた。悪意が薄いからといって損害が軽くなるものでもない。彼が憎む「醜い悪」は、このような曖昧な責任の中にも潜むのだろうか。
リスベルは銀糸を巻き直し、術式の控えを羊飼いへ手渡した。鑑定料は組合の研究費から出るという。帰路、シオンは遠くの雪山を眺めた。山の向こうにも宿駅があり、そこでは別の役人が自分たちの馬を守るため決断をしている。




