誰のための火
宿駅へ術師組合の若い符刻師が着いた。リスベルという女で、銀線と石粉を詰めた長箱を担いでいる。風見鶏の修理は、屋根へ上がる大工と、術を刻む符刻師の共同作業だった。宿の親方は見習いを二人出し、カルナは通行人を遠ざけた。
リスベルは古い刻印を見て眉を寄せた。魔除けの力が弱まったのは銀線の摩耗だけではない。何年も前に術式を書き換えた跡があった。古い符は山の獣を眠らせ、新しい符はただ遠ざける。魔獣が別の谷へ集まり、農村に出るようになった原因かもしれない。
村へ使いを出すか、まず風見鶏を直すかで意見が割れた。リスベルは両方を進めたいと言い、親方は費用の責任を気にした。シオンは書き換えた者を捜し、見せしめにできないかと提案した。カルナは彼を見据えた。「見せしめを始める前に、今夜眠る場所を決めてやれ」。
村へ向かう使者は農具を運ぶ商人に同行することになった。急ぎの警告でも、山道で馬を一頭走らせる費用は重い。親方は送り状に受領印の欄を設け、着いたか確かめられるようにした。リスベルは術式の図を二通に分け、一通を村へ、一通を組合へ残した。
修理の間、岩鼠を追う犬が谷で怪我をした。子供の飼い犬で、宿屋の女将が温めた布を当てた。小さな命を守る手当てと、魔術の印を直す仕事が同じ夜に続く。シオンは高い屋根から見下ろし、自分が強い恐怖の仕組みに惹かれていることを隠さなかった。
明け方、刻印が新しくなった。修理代の請求先は町会と宿駅で折半され、谷の調査費は別に申請するという。シオンは村へ行く馬に送り状を渡した。誰が改符したかを知る前から、人は被害に備える。そうした現実の前で、自分の美学はまだ幼かった。




