白封蝋の請求
王都から届いた白封蝋の書状が、町会の机に置かれた。関税問題で滞った返金のうち、国庫が負担した分を地方へ求償するという。書状に名を連ねた部署は三つ。町会議長は予算を見直し、橋の手すりを飾る彫刻工事を来年へ延ばした。
シオンは賠償の定期報告を持って役所へ行き、廊下で議長とすれ違った。彼が何か言う前に議長が口を開く。「君の手紙は保管してある。私が読んだのは要求より署名の方だ」。恐れではなく、厄介な町民を忘れないという口調だった。
シオンは監察補佐官リュシアが残した調査要領を閲覧した。厳密な記録には官吏の誤りも、監察側の判断遅れも並んでいる。誰か一人を悪として吊り上げるだけでは終わらない。白封蝋の請求書にも、徴税過誤と盗難の賠償が別の欄に記されていた。
役所では国庫からの請求に抗議する陳情も用意された。徴税の過誤を地方だけへ負わせるのは公平ではないという。議長に反対してきた若い議員まで署名した。シオンはその連名を読み、自分が敵と決めた相手も、別の争いでは共に立つことがあると知った。
役所の門で子供が彫刻工事の延期を聞き、残念がった。亡くなった石工の父が彫るはずだった花飾りが、橋に付かなくなるからだという。町会は代替として、石工組合が寄付した小さな銘板を据える案を考え始めた。誰もが金額だけを見ているわけではなかった。
帰宅後、シオンは自分の名を封筒に書く練習をした。美しい筆跡が欲しいのではない。自分の名を記して脅すなら、相手に証拠として残される不利も引き受ける。その覚悟の重さを確かめたかった。雨の止んだ窓辺で、乾いたインクを指先でなぞった。




