公領の馬草
サーヴェン公領から草を積んだ馬車が三台来た。穀物の緊急輸送は一段落したが、街道馬の餌は依然不足している。公領の商人フェルノは荷を高く売ろうとして、ルーヴェルの厩舎主と夜遅くまで争った。どちらにも家族と雇い人がおり、値を譲れない理由があった。
シオンは車幌を修理するため厩舎へ呼ばれた。そこへ公領の少年使いが駆け込み、馬車の印札がなくなったと訴える。印札がなければ関所の出入りを記録できず、帰路の税を二重に取られる。厩舎の親方は盗難を疑い、預かっていた人足を問い詰めた。
シオンは荷台の綱を見た。印札は藁の結束に挟まれ、繊維の裂け目へ入り込んでいた。落ちた札を見つけたのは、車輪の底を洗っていた下働きの少女だった。彼女は黙って主人へ差し出す。人足が謝罪を求めたが、親方は礼を濁した。
厩舎主は少女へ褒美の菓子を渡したが、謝罪は口にしなかった。人足たちはその態度を覚えており、翌日の賃上げ交渉で話題にした。シオンは印札を探すだけの騒ぎが、職場の信用へ残ることを知った。公領の商人も、今後は荷の確認を二人ですると約束した。
公領の商人は事情を聞き、少年使いの責任としなかった。代わりに紛失を防ぐ紐を注文し、シオンに代金を前払いした。「こちらへ来ないか。公領には細工を教える工房が足りない」。誘いは商人にとって現実的な採用の提案であり、特別な運命を告げるものではなかった。
夜、シオンは橋を歩きながら公領の話を考えた。ここでの悪評が薄れぬうち、よその土地で名を築く道もある。しかし逃げるように移れば、積み上げた賠償が消えるわけではない。彼は雇用の条件を紙に書き留め、すぐには答えなかった。隣国には隣国の秩序があり、遠い城では誰かが翌年の馬草の量を決めている。




