判事の問い
法廷の日、シオンは黒い外套を着なかった。留置中に保管されたままだからだ。彼は借りた灰色の上着で壇に立ち、検察官の問いに答えた。帳簿を持ち去った方法、返した理由、監察への影響。ひとつずつ声に出すうち、自分の行為がどれだけ他人の仕事に寄りかかっていたか分かってきた。
弁護を引き受けた老法律家は、若さと自首を酌量するよう求めた。シオンは遮らなかった。自分から言えば、それも印象を操るための言葉になりそうだったからだ。被害を訴える側からは、返金が遅れた商人の証言が提出された。
判事は最後に尋ねた。「君は、また同じことをするか」。シオンは長く黙った。もうしないと言えば釈放に近づくかもしれない。しかし他人の秩序に挑むこと自体を諦めるつもりはない。彼は「同じ方法ではしません」と答えた。
判事は眉をひそめた。言葉の逃げ道を見抜いたのだ。判決は短期の拘禁と賠償、釈放後の定期報告だった。罰は重すぎず、軽すぎもしない。廷内に拍手は起きない。
傍聴席の端には、証拠箱の再点検にあたった木工職人がいた。彼は緩んだ底板を補修し、その賃金をまだ受け取っていないという。判事はその費用も賠償の対象に含めた。シオンは職人の名を初めて聞いた。自分が忍び込んだ夜の続きには、顔も知らない働き手がいた。刑が終わっても、その顔を思い出すことはできないだろう。だからこそ金額だけは覚えておくと決めた。
町会ではその日、春の橋梁点検が始まった。裁判の結果を聞いた人々の反応も様々だった。馬鹿な若者だと笑う者、もっと重い罰を求める者、名前さえ知らない者。シオンは法廷を出て、初めて自分の名が悪事と結びついたことを知った。




