鉄格子の向こう
牢の隣室には、山道で盗みを働いた老人がいた。寒さで畑を失い、食料を奪おうとして捕らえられたという。老人は何度も自分は悪くないと繰り返し、やがて声を枯らした。シオンはそれを聞くうち、ただ罪を認めれば美しいわけでもないと考えるようになった。
配膳の若い係員は、囚人に分け隔てなく粥を渡した。誰が盗人で誰が暴力犯か知らないのではない。決められた量を欠かさず与えるのが仕事だからだ。シオンはその淡々とした手つきに、奇妙な敬意を覚えた。
夜、隣の老人が息苦しさを訴えた。シオンは鉄格子を叩き、見張りを呼んだ。係員が医者を連れてくるまで、老人は床で肩を震わせていた。医者は肺に水が溜まり始めていると診断し、別室へ移した。
シオンは自分が善行を積んだとは思わなかった。助けを呼ぶ以外に何ができただろう。だが一方で、他人の弱り目を利用して優位に立つことが、自分には耐えがたいほど醜く感じられると確かめた。
隣室の老人は後日、医者の診断を受けて刑の執行方法を見直されることになった。シオンの呼び声がそのきっかけではあったが、決めたのは医者と判事だった。老人は別室へ移る朝、薄い声で礼を言った。シオンは答えず、木の椀を洗い始める。自分が救ったと胸を張れるほどのことではない。むしろ、たった一声しか出せなかったことが、牢の狭さを思い知らせた。
翌朝、ヨエルが彼の調書へ目を通した。夜の一件は欄外に記されていたが、窃盗の項目は消えない。小さな行いが別の行いを帳消しにすることはない。シオンはその明瞭さを、牢に入って初めてありがたいと思った。




