↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪の美学――染物師の弟子は、最高のヴィランを目指す  作者: 竜太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
53/180

待たされる家々

返金が延期された知らせは、朝の市場で最初に広まった。北門へ荷を運んだ商人は翌月の仕入れ金を失い、靴工房の親方は職人への賞与を後回しにする。役所の書記は処分待ちのまま仕事を外され、娘の薬代を妻が親族から借りた。誰も証拠箱の底板を見たことはない。

ネラは新しい貸付の申請を整理しながら、金額の小ささに怒りを覚えた。ひと月分の給金があれば助かる家ばかりだ。大きな権力争いの名もない遅れが、生活を狭めている。彼女は王都への直訴文を書いたが、監察局からの返事は来ない。

シオンはその話を聞き、受領記録を戻すことを考えた。戻せば調査は進む。しかし自分が箱を開いた事実も、遅れた時間も消えない。美学を口にする資格は、結果を捨てて逃げる者にはないはずだった。

彼はラウルを訪ね、記録の内容を語った。仲介人は冷たい目で見返した。「人を飢えさせるつもりでやったのか」。シオンは否定した。「だがそうなった」。ラウルはそれ以上責めず、返すなら誰に渡すべきかだけ教えた。

王都の監察局は、証拠箱に不正な開封があったと聞き、地方の書類取扱い規則を見直し始めた。その作業にあたる職員は、ほかの町から届く報告も抱えている。ルーヴェルだけが特別な災難というわけではない。シオンは一人の若者の悪意が、知らぬ官吏の机の上でいくつもの手続きに変わることを想像した。自分の力を誇るには、あまりにも遠く、あまりにも地味な結果だった。

夜、シオンは返還の手紙を書き始めた。名前と住所を隠すためではなく、なぜ盗んだかを正確に書くためだった。理由を飾らないことが、彼に残された最低限の形だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。