古い法廷の傍聴席
かつて『夜の王』を名乗った金髪の男の裁判が開かれた。石工組合と酒場の店主が証言し、殴られた手下も法廷に立った。シオンは傍聴席の奥に座り、目を逸らさずに聞いた。男は借金を理由に同情を求めたが、裁判官は事情を記した上で被害の責任を問うた。
証人の一人が言った。「あの男は怖かった。でも夜を越したら、何を怖がっていたのか分からなくなる」。シオンはその言葉を忘れなかった。相手が弱者を選び、酒で威張るほど、恐怖は薄くなる。恐れの中に筋がなければ、人はただ逃げ道を探す。
判決は重労働と賠償だった。男を殴った者も捜査され、手下の中には仕事へ戻る者がいた。法廷は喝采に包まれず、書記が次の案件を呼んだ。日々の争いは、誰かの勝利を祝うために並んでいるわけではない。
シオンは裁判官の机を見つめた。言葉一つで人の自由を奪えるのは、その背後に長年積まれた制度があるからだ。彼には制度も兵もない。それでも、誰かに『あの男の前では嘘をつけない』と思わせることはできるかもしれない。
法廷の外では弁済を受ける順番を巡り、被害者たちが相談を続けていた。酒場の床の修理費と石切場の道具代は、どちらも必要だが一度に全額は払われない。金髪の男の昔の手下は、再び仕事に就いて少しずつ返すと約束した。法が判決を出したあとも、人間同士の勘定は長く残る。シオンはそこで、悪人が捕まれば全て解決するという期待の危うさを知った。
法廷を出ると、風が冷たかった。エダは店に戻り、床を磨く。裁判の結果を待っていた誰もが、明日の仕事へ戻っていく。シオンはその背中を追わず、別の通りへ歩いた。彼が欲しい名は、まだ誰の記憶にも根を張っていなかった。




