北門の灯が消える
北門の灯台で油が尽きかけた。夜の隊商を案内するための灯で、町会は補充を命じたが、橋の修理費が先に使われ、予算が足りなかった。見張りのバルトは手持ちの油を移し、二晩だけ持たせることにした。トアは宿駅から小さな油壺を借りてきた。
シオンは北門の灯を見るたび、鐘楼で綱を離した夜を思い出した。灯が消えれば人々は恐れる。しかも止める方法は単純だ。油の供給先を買い占めればいい。ラウルに聞くと、灯油の取引には町会の優先権があるものの、払いが遅れれば商会が納品を止められるという。
その夜、シオンは金を使って灯油を押さえることを考えた。弱い者の家に火をつけるのとは違う。町を守る制度の不備を浮かび上がらせるのだ。そう自分に言い聞かせる声のどこかに、初めて明確な加害の意思が混ざっていた。
だが実行する前に、町会は予備費を使って油を確保した。商会も冬の輸送への影響を恐れ、掛け売りを認めた。北門の灯は一度も消えなかった。シオンの思いつきに関係なく、人々は破れかけた仕組みを繕った。
北門の灯の費用を聞いたトアは、宿駅の仲間に余っている油を探してもらった。借りてきた小壺の底には、長い旅の煤が付いていた。夜警のバルトは礼を言ったが、正式な備蓄とは数えなかった。私的な善意に町の安全を任せきりにはできないからだ。町会が予算を確保したのは、その見通しを受け入れたためでもある。シオンは灯の明かりを見上げ、踏みつけるには惜しい強さがそこにあると思った。
彼は市場で静かな苛立ちを飲み込んだ。自分の悪を試す機会が失われたのではない。世界が他人の手で保たれたのだ。それを踏みにじってまで名を残す覚悟があるのか、問いだけが残った。




