議長の秘密会合
町会議長は、王都の監察が終わる前に反対派と秘密の会合を開いた。橋の修理予算を守る代わり、来年度の税負担を見直す取引だった。正規の議場では何度もぶつかる相手同士が、裏では具体的な数字を詰めている。シオンはかつての仕立て仕事で知った連絡役から、会合の場所を聞いた。
彼は黒い花の印を入れた封筒を卓上に置くよう、旅宿の給仕へ金を払った。中には会合の開始時刻と参加者の名前だけを書いた。公表すれば議長の立場は傷つく。だが名前のない文書では脅迫にならない。相手に何を要求するか、シオンはまだ決めていなかった。
議長は封筒を見て動じず、会合を延期した。その結果、税の見直しは先送りされ、橋の修理資金の一部が宙に浮いた。翌朝、石工組合は作業員へ賃金の支払いを遅らせると説明することになった。
シオンは給仕から会合が中止になったと聞き、初めて喜びかけた。しかし、石切場で困る家々を思うと、その喜びには濁りが混ざった。自分は人の生活を犠牲にして、相手の顔色を変えようとしている。そのことを否定する気はなかった。
給仕は封筒を運ぶ前に、差出人の名前がないと気づいていた。客から受け取った金が十分だったので届けたが、何か騒ぎが起これば自分も証言するつもりだった。旅宿の主人は従業員を庇い、悪質な伝言を預からないよう注意した。シオンは後でそれを知り、金で買えるのは動作であって沈黙ではないと悟る。脅しを届ける道にも、自分の意思を持った人間が立っている。
町会の人々は匿名の文書を犯人の個人的な恨みと考え、警備を固めた。誰も黒い花を美しいとは言わない。シオンはそれでも、結果が出たなら引き受けると決め、次の文を自分の名前で書き始めた。




