路地の小さな取引所
水路沿いの空き家に、修繕の依頼が増えた。荷車の幌だけでなく、旅商人の鞄や帳面の綴じ直しも任される。シオンは依頼主ごとに名前と料金を記し、支払いの遅れた者には期日を明確にした手紙を送った。ラウルの請求書を思い出してのことだった。
ある日、三人の運び屋が訪ねてきた。冬の輸送で余った木箱をどこへ売ればよいか知りたいという。シオンはネラから教わった市場の価格表を使い、隣町の倉庫を紹介した。報酬は小さかったが、紹介先からも礼金が入った。
彼は次に、石工組合の余剰石材と南の村の水路修理を結びつけた。商人ほどの資本はない。けれど荷の行き先を一つ変えるだけで、町には目に見える利益が生まれる。シオンは集まった銀貨を数え、ようやく自分の手で人を動かしていると感じた。
ただし取引を重ねるうち、依頼主たちは彼を悪ではなく、腕のよい若い仲介人と呼ぶようになった。シオンはその評価に不満だった。請求を忘れず、紹介先を間違えないだけでは、ラウルの影を薄くなぞることしかできない。
木箱を紹介した運び屋の一人は、利益を家の屋根の修理に使うと言った。残る二人は、次の仕事へ向かうため新しい長靴を買った。シオンは彼らの使い道を聞き、銀貨が自分の帳簿を離れたあとも別の勘定へ進むと理解する。金を手に入れさせたから人が従うわけではない。利益を受けた者は自分の判断で動き、次の機会には別の仲介人を選ぶこともできる。
夕暮れ、シオンは帳簿の背に黒い花を刻んだ。売買の記録と脅しの文は、同じ机で書ける。どちらを使うかを決めるのは自分だ。その選択の自由を手にしたことが、彼を少しずつ傲慢にしていた。




