王都からの黒封
王都の監察局から、黒い封蝋の手紙が届いた。リュシア宛ての調査命令で、ルーヴェルの関税処理を支えた役人三人を事情聴取するという。役所は静かにざわめいた。冬の最中に担当者が抜ければ、橋の修理も輸送許可も遅れる。町会は代理の任命を求めた。
シオンは封蝋の黒を見て、色には権限を与えないと改めて知った。役人たちは蝋の色ではなく、署名の名を恐れている。文書が何を変え、誰がそれを実行するかが分かるからだ。彼の花印にはまだ、そんな確かさがない。
監察局の使者はリュシアへ、まず帳簿の保全を命じた。人を捕らえることより、証拠を失わぬ方が大事だという。税役所の扉は一部封鎖され、代わりに町会の書記が窓口を設けた。民は混乱しながらも書類を出し、列に並ぶ。
ネラは代行窓口の臨時雇いを引き受けた。シオンが手伝いを申し出ると、彼女は首を振った。「あなたには印鑑を預けられない」。彼は笑ってみせたが、否定できなかった。
窓口に並んだ老人は、娘の結婚に必要な証明書を早く受け取りたいと言った。代行書記は事情を聞き、急ぐ書類に印をつける。監察局の都合で役人が減っても、人々の暮らしの節目は止まらない。リュシアは増えた職務の一覧を受け取り、王都へ応援を求めた。役所の人手と悪事の追及は、どちらも軽んじるわけにはいかなかった。シオンはその姿を見て、秩序を壊すならその細かな支えまで見届ける必要があると思った。
夜、シオンは王都からの封書の写しを机に置き、自分の印と見比べた。どちらも黒い。しかし一方は国家を動かし、もう一方は悪戯の記号に過ぎない。その差を埋める方法を考えるうち、彼は一つの危険な答えに近づき始めていた。




