値上げの夕べ
灰雪の予報は外れ、ルーヴェルには小雨が降った。それでも麦の値は下がらない。南からの輸送隊が家畜病の検査で止まり、宿駅では飼い葉まで足りなくなっていた。商会主は入荷を遅らせた分の値上げを正当化し、パン屋は焼く量を減らした。
シオンは穀物倉庫の裏に、商会が隠していた余剰麦の量を書いた紙を掲げた。数字は正確だったが、いつ運べるかは書かなかった。市場には買い付けの列ができ、人々は明日の値上がりを恐れて買いだめを始めた。棚から麦粉が消える速度は、商会主が売り惜しみをしたときより早かった。
ネラは掲示を見てシオンを探し出した。「これを書けば皆が安心すると思った?」。彼は首を振った。「あの商会が市場に頭を下げると思った」。ネラは、頭を下げさせる前に空腹の人間が増えたと告げた。彼の手段は正確な情報でありながら、結果を歪めた。
町会は購入量の上限を決め、救貧院と宿駅へ優先配給を行った。商会主は臨時措置を非難したが、貯蔵の存在を否定できず協議に参加した。小さな混乱は数日で静まった。
パン屋の娘は行列の客へ、まだ焼き上がらない理由を何度も説明した。客の中には事情を理解する者もいれば、苛立って怒鳴る者もいる。彼女は窯に戻り、焦げた一枚を自分の昼食に回した。シオンの掲示を読んだかどうかさえ分からない人が、その結果を受け止めている。市場の混乱は一枚の紙で始まらず、一枚の紙で終わりもしなかった。
シオンは初めて、自分が望んだ形ではないにせよ、町の人々を恐れさせた。その恐怖は自分の名を知らぬ人々に広がり、彼に何の誇りも与えなかった。手元の黒花の木版が、急に重たく感じられた。




