倉庫番の息子
穀物倉庫の番をする老人には、王都へ出た息子がいた。毎月届く手紙を楽しみにしているが、この冬はまだ一通も来ていない。シオンが帳場の棚を調べると、息子からの封書が未開封で置かれていた。商会の主人が届けるのを忘れたらしい。
盗んでしまえば脅迫の材料になる。シオンは封書を一度懐へ入れ、封筒の端にある泥の染みを見つめた。遠い道を運ばれてきたものだ。内容を知らぬまま、老人が毎晩戸口へ目をやる時間だけが積もっている。彼は封書を戻し、配達の遅れを番人本人に知らせた。
老人は受け取ってその場で封を切った。息子は無事で、王都の工事場に移り、来春には結婚するという。老人は倉の隅で何度も同じ行を読み返した。シオンは何も言わず立ち去った。自分を善人だと思いたくなくて、かえって苛立った。
夕方、商会主から呼び出しが来た。倉庫へ勝手に入ったことを咎められ、日雇いの賃金も一日分引かれる。シオンは労働契約の紙を出して反論した。商会主は一瞬だけ口を閉じ、規則に従い満額を払った。
番人の息子は、王都で石橋を造る組に入ったと手紙に記していた。給金は以前よりよいが、冬の高所作業は恐ろしいとも書いてある。老人は喜びの顔のまま、その一行で少し眉を曇らせた。家族の心配は、一通の便りで終わらない。シオンは封書に触れた指先を拭い、使わなかった脅しの手段を心から捨てたかと自問した。答えは曖昧だった。
その夜、ネラは商会が仕入れを止めた理由の一つに、南部で流行る家畜病があると告げた。輸送用の馬が不足すれば、麦を積んでも運べない。商会主の強欲だけが町の値上がりを生んでいるわけではなかった。シオンは誰を恐れさせるべきか、もう一度考え直した。




