↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪の美学――染物師の弟子は、最高のヴィランを目指す  作者: 竜太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
24/168

薄い冬の入口

初霜の朝、ルーヴェルの屋根は白く光っていた。ミラの工房には防寒着の修繕が積み上がり、シオンは指先を赤くしながら針を進めた。ラウルへの賠償はあと少し。町会議長の外套もようやく納品を終え、工房には久しぶりに余裕ができた。

ネラは北門の仕入れ帳を閉じ、辺境への道が雪で細る前に配送を終えられそうだと言った。一方、王都からは監察の追加要員が来ることになっている。関税騒ぎをきっかけに、近隣の三町でも古い印章の使用が見つかったのだ。問題はルーヴェル一つで終わらない。

シオンは夜、工房の裏で剣の素振りを始めた。木剣を振るう姿は不格好で、十回も続けると息が切れる。彼は剣士ではない。幻灯具と帳簿と針だけでは足りず、ようやく自分の身体の弱さにも向き合い始めた。黒い外套は畳んで棚へ置いた。

北門のトアは隊商から戻り、父のために薬草を買った。エダは酒場の戸口に寒風よけの幕を掛け、バルトは夜警の巡回順を組み直した。皆がそれぞれ冬に備えている。シオンだけが特別な季節を迎えたわけではない。

工房の奥ではミラが春の注文帳を開き、祭礼用の旗を縫う布を選んでいた。外套の色は黒でも、祝いの旗には明るい青を使う。シオンはその対比を眺め、自分が黒だけにこだわっていたことを思い出す。いつか黒い名を広めるなら、対照となる色を知っていなければならない。そんな考えを巡らす間にも、職人たちは黙々と冬服を畳んでいた。

彼は帳面の余白に書いた。『悪は、誰かが呼ぶ名ではなく、自ら負う結果によって形になる』。まだその意味を知ったとは言えない。それでも冬が深まるまで、自分が何者であるかを簡単に名乗るつもりはなくなっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。