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悪の美学――染物師の弟子は、最高のヴィランを目指す  作者: 竜太郎


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未払いの倉

空箱の保管料を巡る調査は進み、ギルモの事務員が複数の契約を兼ねていたことが判明した。荷を保管する会社と運ぶ会社と、検品する会社が別々の名義でも、金の出入りを同じ事務所で処理していた。形式上は認められるが、誤りが起きた時に責任を追いにくい。

ハダは倉庫番として記録を提出し、契約をした問屋にも確認を求めた。人々は書類に残った数字をめぐって夜遅くまで働く。払われなかった賃金は、働いた側にとって一日ずつの食費だった。

空箱の帳面には、夜間に移動したはずの荷が昼に検品済みと書かれていた。事務員は書き間違いだと主張したが、船長の記録と合わせても辻褄が合わない。ハダは最初に数字を作った人間を探すより、実際の箱の数を数え直すよう指示した。倉の床には薄い埃が積もり、箱を動かした痕が残っている。

港務官は関係会社へ、記録を破棄しないよう知らせた。単に金を取り戻すだけでなく、同じやり方が続かぬよう仕組みを変える必要がある。シオンは帳簿を写す書記の指先を見て、自分が何かを壊すより、これを直す方がずっと手間が掛かるのだと知った。苦労の量は美しさを保証しないが、無視することもできなかった。

シオンは帳面の外側からその仕事を見た。もしギルモを襲えば、書類のどこが間違っていたか調べる人まで失う。だからといって相手を放っておきたいわけでもない。彼が望む悪の粛清は、法の代わりになりたいという願いではない。自分より浅い悪に、誇りを持って恐れを思い知らせたいだけだ。

夕刻、倉の奥で元荷役人たちが濡れた床を掃き、仕事の手順を新しい者へ教えていた。空の箱には別の品を入れ直す。過去の不正を調べることと、今ある荷を動かすことを、町は同時に続けていた。

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