二種類の印
ギルモは輸送契約の封に、見慣れた黒花とは別の印を使っていた。細い円の中に四本の斜線がある。これは会社の正式な印で、記録から簡単に本人へ辿り着ける。六枚花弁の脅迫札だけが、どの会社のものか曖昧だった。
町会は契約と札を分けて調べ、ギルモが広告として刷った紙が何枚流れたか確認した。倉の空箱についても、実際に積み込みを命じたのが誰か、職人に聞き直す必要がある。店を閉めればすべて終わるわけではなかった。
会社の正式な印には、持ち主が不在でも代理人が使える決まりがある。誰がいつ押したかを記録するため、事務員が小さな台帳を持っていた。シオンはそれを見て、恐喝札に必要なのは印の形より、押した時の責任を残さぬ仕組みだと気づいた。
昼過ぎ、六枚花弁を印刷した店の若者が証言に来た。依頼されたのは黒い色だけで、文面は空白のままだったという。使われた後に誰かが字を加えたなら、印刷工には分からない。町会は紙の行き先を追い、仕入れ先から発注数を照らし合わせた。シオンは書類の量に圧倒された。自分の花の名で起きた騒ぎに、これほど多くの関係者が巻き込まれている。
シオンは二つの印を紙へ写し、その間に自分の五枚花弁を置いた。会社の印は信用を預かり、恐喝の花は責任を隠すために使われる。自分の花には、どちらの性質も混ざっている。名乗りたいのに正体を隠していた過去を思い出し、苦い気持ちになった。
夜、彼はギルモへ短い手紙を書いた。『他人の恐怖を商いにするなら、名を明かして受け取れ』。自分の名と五枚花弁を押し、封をした。送れば脅迫と受け取られるかもしれない。シオンはそれでも郵便箱へ入れた。相手に読ませたいのは、今度は他人の恐怖ではなく、自分がそこにいるという事実だった。




