夜市の皿
夜市には珍しい香草を売る屋台が増え、旅の女が薄い皿へ料理を並べていた。シオンは小銭を出し、名前の知らない煮込みを頼んだ。隣の卓では港の運送人が仕事の話をしている。ギルモの会社は荷が少なくても保管料を取り、遅れた時には別の人に責任を押しつけるという。
女は皿を渡しながら、噂話を聞くより食べてくれと笑った。シオンは香りの強い豆を一口食べ、辛さにむせた。屋台の客たちはその様子を見て笑い、誰も彼の黒衣に関心を示さない。
運送人の一人は、帳簿を読むため夜学へ通い始めたという。文字を覚えれば誰にも騙されないわけではないが、少なくとも署名の下に書かれた小さな字を読める。隣の仲間は笑って、なら俺の分も読んでくれと頼んだ。二人の会話からは疲れが滲むが、仕事を辞めるつもりはまだない。
屋台の女は遠い南の海辺から来ていた。港の客へ料理を合わせるため、塩を少し減らしたと教える。シオンにはそれが物足りなかったが、隣の老人は美味いと頷いた。人が同じ皿を前にしても、欲しい味は違う。女は翌朝、市場の隅で豆を売るつもりだと言い、空いた皿を重ね始めた。青年は食事の値を払ってから、夜学の灯の下を通り過ぎた。
しばらくして、荷役人の一人が顔色を変えて近づいてきた。自分はギルモの仕事を受けたため、先月から代金を受け取れていないという。シオンに何とかしてほしいわけではなく、町会へ書類を出す方法を尋ねに来た。彼が以前ネラと話していたのを見たからだ。
シオンは手続きを知らないと答え、ネラがいる窓口を示した。荷役人は礼を言って去り、女は皿を下げた。知っているだけで助けられることも、知らなければ何もできないこともある。悪への憧れが、いつも役に立つわけではなかった。




