取引の中身
三軒目の印刷工が、ようやく帳簿を町会へ提出した。依頼主はダルンの名義ではなかった。小さな輸送仲介業を営む男、ギルモの名で、港の空箱にも関わっているらしい。帳簿には札の枚数と料金しかなく、脅迫文そのものは残っていない。
ギルモは整った服を着て町会へ現れ、すべて合法な広告札だと主張した。黒花に似た意匠は流行であり、誰でも使える。町会は札の用途を調べるまで結論を出さず、彼が扱う荷を一部確認すると告げた。
調査の席では、港務官がギルモの事務員へ印刷代の領収書を示した。事務員はたしかに支払ったが、札の文章は客が後で書き入れると聞いたと説明する。その客が誰か尋ねられ、彼は取引先の名を二つ挙げた。倉の空箱を扱った会社と、遅れた荷の補償を請け負った会社だった。
ネラは名義のつながりを紙へ描き、同じ住所が繰り返されていることに気づいた。数の多さに若い書記は顔をしかめたが、彼女は一つずつ線を引く。シオンにはその図が奇妙な花のように見えた。中心へ金が集まり、外へ責任が散っていく。ギルモは書記の筆を見ても慌てず、説明の順番を譲らなかった。
シオンは傍聴席で、その男の落ち着いた声を聞いた。ダルンのように自分が楽をするため誰かを脅す小物とは少し違う。ギルモは人が恐れる仕組みを知り、その恐怖へ値札を付けている。シオンの印さえ、安く買える道具に過ぎないようだった。
審理が終わると、ギルモはシオンを見つけて会釈した。「黒い花の持ち主でしたか。いつか商談でも」。シオンは返事をせず、長い廊下を歩いた。名を侮られた怒りだけでなく、恐怖を商いにする者の手際が、ひどく気に掛かった。




