仲介人の請求書
ラウルから届いた封書には、陶器の破損だけでなく倉庫の人足が失った賃金まで記されていた。シオンは銀貨を数え、工房で半年働いても足りない額だと知る。支払わなければ告発するという脅しはない。ただ期日と送金先が丁寧に書かれていた。
「私を金で従わせるつもりか」。シオンはラウルに詰め寄った。男は茶を注ぎながら、取引を壊した者が払うのは当然だと言う。「私はあなたを嫌っていない。損失を放置する理由がないだけだ」。悪意のない断固たる態度は、シオンが考えていた脅迫より手強かった。
金を作るため、シオンは夜の稽古をやめて裁断と縫製を請け負った。町会役員の外套の修繕、葬儀用の手袋、冬靴の内張り。指が痺れるほど針を動かし、数週間で賠償の半分を用意した。ミラは理由を聞かなかったが、灯油だけは追加で買ってきた。
人足の一人は既に別の商会で働き始めていた。もう一人は足を痛め、仕事を探している。ネラが事情を教えた時、シオンは金を払えば終わると考えた自分を恥じた。損失は一枚の請求書に収まりきらない。
ミラは弟子の仕事が増えても、その理由を聞き出さなかった。代わりに針の補充と灯油の値上がりを帳面に付けた。無理な夜更かしで縫い目が乱れた日には、納品前の品を全部ほどかせた。金を急ぐために客へ粗悪品を渡してはならない。それが彼女の線引きだった。シオンは何度も苛立ちながら、最後には縫い直した。悪への憧れと生活の技術は同じ指に宿っていた。
ラウルは期限を延ばした。親切ではない。働いて払える相手からは、確実に回収する方が得だからだ。シオンはその理屈を理解し、同時に自分もいつか、相手の逃げ道ではなく選択そのものを握ってみたいと願った。




