青墨の指
青い墨を扱う印刷工は町に三軒あった。シオンが尋ねると、第一の店では教会の会計簿を写し、第二の店では子供向けの教材を刷っていた。第三の店は近ごろ小さな札ばかり注文を受けている。主人は発注者を明かせないと答え、面倒を避けるよう奥へ引っ込んだ。
シオンは自分の黒衣を見せても主人が怯えないことに苛立った。だが職人はただ店を守ろうとしている。受けた注文を勝手に漏らせば、他の客まで失ってしまう。脅迫のためであると分かれば話は別だが、今は確かな証拠もない。
最初の印刷工では、弟子が学校用の文字札を並べていた。王国の古い文字には似た形が多く、子供が取り違えないよう一枚ずつ色を替えている。第二の店には結婚式の案内状が積まれ、新郎の母親が名前の綴りを何度も確かめていた。どちらも青い墨を使うが、恐喝とは関係がなさそうだった。
第三の店の主は注文書を見せる前に、顧客の信用を守るため必要な手続きを求めた。シオンはその慎重さを嫌いながら、もし自分の修繕依頼を他人へ教えられたら腹を立てるとも思う。指先の染みだけで相手を罪へ結び付けるのは、彼が望む格高い悪とは程遠い。青年は戸口で半歩立ち止まり、自分の足音をわざと大きくして帰った。
帰り際、印刷工の弟子が手を洗っていた。指先に染み込んだ青墨は、何度こすっても落ちないという。弟子は笑い、紙の仕事は手に残ると見せた。シオンは墨の匂いを覚え、数日前に見た男の指を思い出す。
その夜、バルトは印刷工の帳簿を正式に調べるため、町会の許可を待っていた。シオンは許可のない自分なら、夜のうちに店へ入れると考えた。その可能性を胸の内で何度も転がす。まだ何もしなかったのは善意からではなく、暴くべきものがどこにあるか分からなかったからだ。




