黙った税吏
港商会の税吏が、六枚花弁の札を二度受け取っていたことが分かった。一枚は集会所、もう一枚は税の納付窓口に置かれていた。税吏は脅しに屈するわけにはいかないと、最初の札を黙って机へしまった。しかし二枚目には彼の家族の名が書かれていた。
税吏はバルトへ相談し、自宅の戸締まりを頼んだ。衛兵は名の出た家族へ先に事情を知らせ、夜間の通りを少し明るくした。町会は窓口の人員を替えたが、納税そのものを止めることはできない。
税吏の妻は家の奥で、子供たちが帰るまで戸を開けないよう頼んでいた。市場で顔見知りの女が食料を届け、近所の老人が夜に戸口を見張ると申し出る。だが妻は負担を掛けたくないと断り、衛兵の巡回だけで十分だと伝えた。誰も勇敢な英雄にはなろうとしない。今夜、子供を眠らせたいだけなのだ。
役所では税吏の同僚が彼の仕事を引き受け、納付の遅れを次の日へ回していた。窓口の外に待つ農夫たちは苛立つものの、事情が分かると書類を持ち帰った。税吏は翌朝、妻の作った弁当を机へ置き、遅れた分から順に処理する。昨夜の不安は消えていない。けれど窓口の向こうへ怒りを返すことはしなかった。
シオンは税吏の家の前を通り、窓に映る灯を見た。自分が脅迫状を送った時、相手の暮らしは同じように乱れたのだろう。分かっていてなお、美しい悪を望む心は衰えない。その事実が、ただ恥ずかしいと思う気持ちよりも重く残る。
翌日、税吏は窓口へ戻った。家族の無事を確かめてから机に座り、納付書の数字を確かめ始める。人を恐れさせても、仕事を放棄しない者がいる。シオンはその姿に敬意を覚えたが、名乗る勇気はなかった。




