拾われた帳面
捕らえられた使いは、荒物屋の主人に頼まれたと供述した。名はダルン。主人は札を自分で書いたのではなく、客の頼みで包みを用意しただけだと主張する。店には古い帳面が残り、夜番の賃金を支払った記録があった。バルトは帳面を預かり、他の荷役人へも話を聞く。
ネラは問屋の営業を止めず、倉の業務を続けられるよう別の出入口を用意した。恐喝された側が損失を抱え、告発したことで仕事まで失うのはおかしい。番頭はその配慮をありがたく思ったが、他の商人には事情を黙っているよう頼んだ。
荒物屋の棚には釘や紐がきちんと並び、帳場の古い椅子には厚い座布団が敷かれていた。長年店を営んできた生活の匂いがある。ダルンの妻は棚卸しの最中で、夜に余分な人を雇ったことさえ知らなかったらしい。彼女は衛兵の問いへ、帳簿の数字なら答えると告げたが、夫の考えまでは知らないと言った。
倉庫の使いが金を取りに行った夜、妻は病気の親を見舞っていたという。証言を合わせても、誰が札を考えたかまだ分からない。シオンは家の窓を見ながら、家族を持つ悪人と、その家族が悪を選んだかは別の問題だと考えた。そこを一緒に扱うなら、自分が嫌う下劣さと変わらなくなる。
シオンは荒物屋の前に立ち、店先に吊るされた鈴を見た。中へ入れば主人と向き合える。しかし自分が罰を与える資格があるのかどうか、考えても答えは出ない。そもそも資格など欲していない。醜い悪を罰するのは、彼自身が望む美学のためだ。
店から出てきたダルンの妻は、子供を連れてパン屋へ向かった。夫のしたことを知っているのかもしれないし、知らないのかもしれない。シオンは妻子を人質に使う発想を即座に退けた。それでも店をどう壊せば主人に恐怖が届くかという考えは、頭から離れなかった。




