笑い声のない見世物
ヴィルの仮面店では、黒花の仮面を買った客が返品を求めていた。宴の天幕に残された印と似ているため、家族が怖がるという。店主は売ったものを回収し、代わりに青い羽根の仮面を渡した。仕入れた銀糸が無駄になると嘆きながらも、誰かの不安を笑わなかった。
アリスは旅芸人の仲間ともう一度広場を訪れ、子供たちのために短い芸を見せた。人を傷つけぬ杖さばきに歓声が上がる。だが悪王の名乗りを聞きたいと頼まれると、彼は首を振り、今日は旅の歌を歌うと答えた。興行の後に本物の恐喝や破損が起きれば、同じ言葉を使いにくくなる。
仮面を返しに来た客の中には、子供の誕生日に使うつもりだった家族もいた。ヴィルは別の意匠を提案し、飾りの羽根を無料で付け替えた。商人として損をしたことは確かだが、来年も来る客へ無理に恐怖を売る気はなかった。店の奥では若い職人が返品された布の傷を確かめ、使える部分を帽子の飾りへ変えていた。
アリスが旅立つため荷車を借りに来ると、二人は次の町の風の強さを話した。北へ進む道は日が短く、幕を乾かす時間を見積もる必要がある。シオンは彼らが明日の天気を真剣に心配していることを見て、自分が黒い花に込めた一夜の威厳など、旅を続けるにはほとんど役に立たないと感じた。
シオンは店先で、売り物にならなくなった仮面を見た。ヴィルは花を削り落とし、新しい柄へ変えるという。怖さが売れないなら別の美しさを売る。商人の判断には迷いがなかった。
「あなたが本物なら、いっそ誰も真似できないことをしてはどうです」とヴィルは冗談めかして言い、すぐ顔色を変えた。自分の言葉が危険な勧めにもなると気づいたのだ。シオンは笑わずに帰った。彼には、何も知らぬ人から恐れを求められる瞬間の方が、罵倒されるより危険に感じられた。




