縫い目の証人
破れた天幕を調べたサナは、役所の書記へ布片を渡した。刃が入った位置は補修の目印から指二本分だけ下で、素人が偶然切るような場所ではない。リナは切り口を裏から透かし、縫い代に沿って布が開くよう計算した痕だと言う。仕事で教わった技術が、こんな形で現れるとは思わなかった。
バルトはシオンの名を尋ねず、分かることだけ書き留めた。技術を持つ者は町に大勢いる。縫い針を使えることだけで犯人にはならない。サナは声を落として、以前の偽札も同じ青年の手だったと伝えた。それでも彼女自身が刃を見たわけではないと、最後に付け加えた。
リナは刃を入れた者が布の構造を知っていたと考え、以前の納品伝票を調べた。そこには舞台を張った職人や、布を運んだ舟大工の名が並んでいる。サナは初めからシオンだけを疑うのではなく、誰が天幕へ近づけたかを調べるべきだと告げた。自身の予感をそのまま役所の結論にしてしまえば、無関係の者を傷つける。
書記は証言を聞いた後、布片を小さな封筒へ入れた。事件の夜刻には灯の色が変わっていたため、目撃者が手袋の色を間違えた可能性もあるという。ヴェグは仕事場へ戻り、針の数を数え直した。裁縫の道具にはそれぞれの職人の名が付けてあり、見失わぬ工夫が続いていた。
シオンの工房へはまだ誰も来なかった。彼は朝の修繕を終え、届け先の家で生地の色を相談していた。相手は冬に備えた厚布を選び、袖に風を通さぬ縫い方を頼んだ。黒衣の男が何をしたかより、今夜の寒さの方が重要だった。
夕方、サナは裁ち台へ新しい布を広げた。指先に覚えのある刃の角度が残る。もし犯人がシオンなら、あれはもう職人の腕の使い方ではない。それでも彼女は刃を扱う技術を教えた自分まで責めようとはしなかった。責任を持つのは、刃を置いた人間だ。




