余興の小さな錠
晩餐会では、児童救済の寄付箱を使った余興が企画された。鍵は三つに分かれ、代表の商人と町会長と遺族席の母親が一つずつ預かる。最後に皆で開け、入った金を数えるのだという。錠前師の老父はその仕組みを作ったが、息子が店を離れてから作業が遅れていた。
シオンは革の持ち手を作る依頼を受け、寄付箱の木目を見た。錠は丈夫で、もし一つ鍵がなくなれば開封できない。小さな妨害でも、宴の最後に大勢の顔が曇る。彼はその可能性にひどく心を惹かれた。
老父が組み上げた寄付箱は、錠を開けるたびに鈴が一つ鳴る仕掛けだった。中身を運び出す人が勝手に開ければ、周囲が気づけるようにするためだ。弟は鈴が大きすぎると心配し、老父は小さすぎれば意味がないと返す。二人が試すたび短い音が部屋に響き、隣の鍛冶屋は鐘の練習かと笑った。シオンが箱へ近づくと弟は手を止め、縫った革を当ててほしいと頼んだ。誰かの善意を守る道具を作る手元が、いま自分の手元と重なっている。青年は鈴の紐へ触れ、容易に切れる太さであることを確かめてしまった。
老父が金具の具合を調べる傍ら、町会長は鍵の保管方法を確認していた。鍵を預かる未亡人は難色を示した。大金を預かる責任を負わされるのが怖いのだ。町会長は彼女の気持ちを聞き、保管役は職員に替え、開封の時だけ一緒に触れてもらうことにした。
シオンは鍵穴の寸法を記憶しようとして手を止めた。狙う相手は権力者ではなく、何も失いたくないと願う母親にもなる。それでも自分には、たった一本の鍵で皆の顔を凍らせたい欲望がある。家へ帰る頃、古い鍵の金属音が耳から離れなかった。




