黒花を磨く夜
シオンは道具箱から五枚花弁の古い版を出した。役所に押収されたものとは別で、まだ柔らかい木の匂いが残る。彼は花弁の一枚をわずかに削り、線の深さを変えた。自分だけが知る小さな違いだ。偽物が出回る町で、本物を証明するための印を持つのは滑稽にも思えた。
窓の向こうでは港の晩餐会の明かりを試している。水面に照明が映り、上等な衣を着た商人たちが集まる予定だ。シオンは招待章の番号と席順を思い返した。力を誇示する者ほど、たった一つの汚れを嫌う。彼は富を奪わずとも、誇りだけなら傷つけられると思った。
版の裏には、初めて黒い花を彫った時に書いた日付が残っていた。その頃は花弁の形も揃わず、紙に押せば線が潰れた。シオンは欠けた部分を直そうとして、直し過ぎれば最初の形まで消えると気づく。彼は刃を置き、古い印影と今の印影を並べて見た。確かに技術は上がっている。しかし何を怖がらせたいかという問いへの答えは、まだ曖昧なままだ。外からは灯を設置する職人の掛け声が聞こえ、縄を引くたび金具が小さく鳴っていた。青年はそれを聞きながら、今夜は何も壊さないという選択が自分の臆病さかどうかを考え続けた。
だが今までのように嘘の警告を置いても、ただ同じことの繰り返しになる。シオンは机に紙を置き、宴の席で誰が何を恐れるかを考える。金銭の損失を恐れる者、他人の眼差しを恐れる者、明日仕事がなくなることを恐れる者。恐れには形がないぶん、扱う者の品性が露わになる。
夜更け、彼は版を覆いへ戻した。まだ何も決めていない。窓辺の瓶には濃い染料が残り、細い光の筋が黒い液を貫いていた。シオンはその色が好きだった。好きな色と、他人が嫌がる行為の間には、まだ大きな距離がある。




