遺族席の布
宴に招かれた舟番の未亡人は、新しい外套を買う金がないと断ろうとしていた。港商会の若い書記が家を訪ね、普段着で構わないと説明した。未亡人はようやく頷いたが、子供たちには人前で失礼なことを言うなと何度も注意した。祖母は亡き夫の古い襟飾りを箱から出した。
シオンは書記に頼まれ、その襟飾りへ新しい紐を通した。飾りは真鍮で、招待章よりずっと軽い。父を失った姉弟は飾りを触りたがったが、母は宴の日までしまっておくという。シオンが針を動かす間、弟は父が舟の名をどこから付けたかを話し、姉は知らない顔をして窓を拭いていた。
姉は襟飾りを手にした弟へ、父親が舟を出す時に口笛を吹いていたと話した。弟にはその音の記憶がなく、同じ口笛を吹いてほしいとねだった。姉は途中で息が続かず、二人は笑ってしまう。母親は笑い声に気づき、戸口でしばらく黙って立っていた。シオンは糸を引く手を緩め、その場に別の言葉を足さない方がよいと思った。父親が戻らないことと、今ここに笑いがあることは、互いを打ち消さない。仕事が終わると弟は飾りを箱へ戻し、姉は宴の靴が汚れていないか確かめた。家族には家族の支度があった。
飾りを預けた未亡人が「黒い花の人が、こんな細い紐を直すのね」と言った。彼は気の利いた返事を探さず、古い金具が折れぬよう確かめた。ここに黒花の意味を説明する必要はない。
夕方、宴の支度をする職員が部屋の飾り布を選んでいた。華やかな色が並ぶ中、遺族席だけを暗くする案は退けられた。悲しみを見世物にしないためだという。シオンはその決定を知らない。彼は仕立場へ戻り、翌日に納める仕事の糸を数えていた。同じ町で、人々の思いはそれぞれ別の場所へ積もっていく。




