西埠頭の寄合
西埠頭の商人たちは、次の月から荷置き場の使用料を上げると決めた。板材が値上がりし、朽ちた桟橋を架け替える金が足りない。魚商は荷を置く時間が短いのに同じ料金を取られると反発し、陶器問屋は割れ物の補償を増やしてほしいと訴えた。港務官は長い机の端で、皆の言葉を順に書き取った。
シオンは修繕の納品書を渡しに来ただけだった。寄合の出入口に若い使いが立ち、手袋に隠した傷を気にしている。昨夜遅くまで書類を写したのだという。使いは新料金の表を町へ配る役目だが、商人たちから文句を言われるのが怖いらしかった。
石工組合の代表は、未払い賃金の名簿を机へ置き、何月の仕事かを一つずつ説明した。中には橋が壊れた夜、雨の中で石を運んだ老職人の名もある。その老人はいま足を傷めており、息子が代わりに話をしに来た。採決を急ぐ商人たちは最初いら立ったが、老人の仕事の日付を聞くうち、費用の使い道を尋ねる声へ変わっていった。使いは配布前の料金表を抱えたまま、机の端で耳を澄ませた。書き直す箇所が増えるたびに、彼は墨壺を持って廊下へ走った。会議が延びれば、印刷所の仕事も変わる。
集会の途中、一人の問屋が前年の修繕費を示す帳簿を要求した。保管庫から運ばれた記録には、未払いのまま残った石工の賃金がある。港務官は賃金の請求を優先して処理すると答え、料金改定の採決を翌週へ延ばした。時間が掛かることに誰も満足しなかった。
シオンは、帳簿を一枚抜き取れば寄合を好きな方向へ転がせると思った。誰かの名前に黒花を添えるだけで、疑いは生まれる。そうした力こそ悪らしいと感じる。だが彼が見たのは、まず使いが紙を汚さぬよう抱えて走る姿だった。自分の欲する恐怖が誰の手から始まるのか、今度は曖昧にしておけなかった。




