錠前師の長男
北門から二つ目の路地で、錠前師の長男が行方不明になった。男は二十歳で、家の借金を理由に隣領へ働きに出ると言っていた。父親は誘拐だと騒いだが、本人の置き手紙がある。バルトは失踪届を受け取り、強制された証拠がない限り成人の移動を止められないと説明した。
錠前師の仕事場には作りかけの鍵が並び、息子の机だけが空いていた。母親は毎日その机を拭き、弟は引き出しの図面を勝手に使うことを拒む。店の注文は減らず、父親は夜まで炉に向かった。シオンが革の留め具を届けた時、客の一人が、黒い花のせいで若者が町を嫌ったのだろうと口にした。
長男が使った鑢の持ち手には、幼い頃に刻んだ印が残っていた。弟はその道具を棚から下ろせず、自分の仕事を始める時は別の鑢を買ってほしいと父へ頼む。店の金が苦しいからと父が渋ると、母親は自分の古い指輪を売ってもいいと言った。家族の話し合いは悲しみだけでは進まない。そこには明日の注文を仕上げるための、現実の金と道具の問題があった。やがて弟は、兄の机を空けたまま隣に小さな作業台を据えることになった。その台は少し低く、自分の背丈に合わせて作った。
シオンは首を振った。名を知らぬ他人の決断まで自分のせいにするのは、余計な威張りだ。だがその言葉を喉まで飲み込む。町では彼の印が、説明できない不安に貼り付ける便利な名となっていた。
数日後、長男から手紙が届いた。仕事はきついが、自分で決めたと書かれ、父への詫びはない。母親は手紙を皆に読ませ、父親だけが黙って鍛冶床へ向かった。シオンは戸口に立ち、名を持つ人間が皆、名を残すために生きているわけではないと知った。




