幕の下の賃金
興行の翌朝、広場の裏手で役者たちが賃金の支払いを待っていた。帳面を持つ一座の支配人は、入場者が予定より少なかったので支払いを三日後に延ばすと言う。楽師の一人が契約書を示すと、男は幕を片付ければ払うと声を荒らげた。テオは衣装を返しに来ただけだったが、誰も受け取ってくれない。
ヴィルは仮面売りの利益と一座の勘定は別だと説明した。役者は彼の店の飾りにはならない。老女の楽師が広場の井戸に腰を下ろし、明日の旅賃がなければ次の町へ行けないと呟いた。シオンは華やかな悪王の仮面が、裏側では針一本の値を争う仕事だと知る。
先払いを求めた楽師の仲間には、喉を痛めて次の町で歌えない者もいた。三日の遅れは数枚の銅貨に見えて、宿代や薬代の工面を変えてしまう。女楽師は帳面を指さし、昔は一座へ入る前に契約書の字を読めなかったと打ち明けた。今は自分で日付を確かめ、仲間のためにも違う欄へ印を押さない。若い踊り手が内容を読み上げると、支配人の顔が硬くなった。押しつけられた沈黙を破るのは、派手な演説ではなく、読める文字が増えたことでもあった。
支配人が隠した売上金は、証言が足りず盗みと断じられなかった。町会は興行税の納付簿を調べ、支払額が契約に合うか確かめる。ヴィルは宿代を立て替え、後で取り戻せるか分からないとため息をついた。
シオンは支配人の襟を掴みかけた。だがこの男を地面へ転がしても、明日の賃金を作れるわけではない。彼は手を離し、楽師の楽譜入れの壊れた留め金を直した。代金はいらないと告げた時、老女は「ただにするなら次は断るよ」と笑った。仕事には値がある。その簡単な言葉だけが、幕の下へ残った。




